暁のハルモニア 作:並木陽(青春アドベンチャー) - 格付:A

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作品 : 暁のハルモニア  
番組 : 青春アドベンチャー  
格付 : A  
分類 : 歴史時代(海外)  
初出 : 2018年8月27日~9月7日(全10回)  
作  : 並木陽  
音楽 : 日高哲英  
演出 : 藤井靖  
主演 : 海宝直人  


17世紀、ドイツは戦乱の渦中にあった。
「三十年戦争」。
カトリックとプロテスタントの間で争われた最後にして最大の宗教戦争により、国土は荒廃、住民たちは塗炭の苦しみを味わっていた。
後世から見れば「暗黒の中世」は終わりを告げつつある時代。
しかし、イタリアでガリレオ・ガリレイが「それでも地球は動く」と呟かざるを得なかった時代でもある。
いわんやドイツにはまだ近代文明の曙光もさしていない…ように見える。
しかし、そんな時代でも新しい学問を求め歩みを止めない青年がいた。
彼の名はヨアヒム・ハインツェル。
若き天文学者である彼は戦乱で大学を焼け出され、行くところがない。
しかし、これを幸いと、予てから憧れていた大天文学者ヨハネス・ケプラーに会いに行くことに決めた。
神のあり方を巡って混乱する地上。
しかし、真理の光があれば世に調和をもたらすことだってできるはずなのだ。



本作品「暁のハルモニア」は並木陽さん脚本による近世ヨーロッパを舞台としたラジオドラマで、NHK-FMの「青春アドベンチャー」枠で連続10回(15分×10回)で放送されました。
並木陽さんの原作の作品としては、青春アドベンチャーでは前年の2017年に「斜陽の国のルスダン」が放送されており、すでにこのブログでも紹介をしているところです。
詳細はそちらの記事を参照していただきたいところですが、並木陽さんってプロの作家さんでなく「斜陽の国のルスダン」ももともと同人作品として発表されたもの。
その、いわばアマチュアの作家さんの作品がまたも採用されるなんてすごいなあと思っていたのですが、公式HPをよくみると並木さんの扱いは何と「原作」ではなく「作」ではないですか!
つまり、これってラジオドラマ用のオリジナルの脚本なのです。
同人小説とはいえすでに形になっていて事前に内容確認できる作品を採用するならいざ知らず、同人作家にオリジナルの脚本を依頼してしまうなんて。
青春アドベンチャーの(この場合は恐らく「演出の藤井靖さんの」、なのでしょうが)先進性は相変わらずですね。
そして、本作品は脚本で冒険している分、主要キャストはとても手堅くまとめているのも特徴的。
主役のヨアヒムを演じる海宝直人さんは、なんと子役時代の2003年に「DIVE!!」で青春アドベンチャーに主演しているほか、近年では「タランの白鳥」(2015年)・「斜陽の国のルスダン」で起用されるなど藤井さんの信頼が厚い方。
そもそも「ライオンキング」に主演したこともあるミュージカル畑では有名な俳優さんですしね。
その他の出演陣についても、キーとなる渋い役どころで鈴木壮麻さんや栗原英雄さんなど「また、桜の国で」「帝冠の恋」など藤井さんのヨーロッパ物で定評のあるミュージカル畑の役者さんがずらりと脇を固めています。
といっても必ずしも冒険が一切ないキャストではなく、今回ならでは、の演者もいます。
例えば、準主役といって良いイザークを演じるのは藤岡正明さん。
藤岡正明さんって誰?と思って検索してみると、ミュージシャンとのこと。
ミュージシャン?藤岡?
あっ!思い出しました、2000年の「ASAYAN」!
川端要と堂珍嘉邦のユニット「CHEMISTRY」をデビューさせた伝説のオーディション企画「男子ボーカリストオーディション」で最終選考に残った4名の中に生意気そうな男の子がいました。
彼の名前がそう「藤岡」だった。おじさん、覚えているよ!
Wikipediaによれば最近はミュージカルでも活躍されているとか。
立派になったねえ。
また、キャスト紹介で海宝さん、藤岡さんの次に紹介されているのが、アマーリエを演じる「朝夏(あさか)まなと」さん。
私は知らなかったのですが、名前からして(また藤井さんの最近のキャスティングの傾向からして)宝塚歌劇団出身の方かな~と思って検索してみると、何と第7代宙組トップスター(2017年11月退団)とのこと。
花總まりさん(「斜陽の国のルスダン」)や野々すみ花さん(「帝冠の恋」、「雨にもまけず粗茶一服」)など近年、元トップ娘役の起用が多い青春アドベンチャーですが、今回は元トップスターで来ましたよ。
なお、本作品、先に主要キャストを決め、その出演者をイメージしながら脚本を書いていく、いわゆる「当て書き」という手法でつくられているとのこと。
オリジナル脚本の作品ならではですね。

……などと作品のストーリーに関係なところで記事を進めてしまいましたので、この辺で軌道修正して、作品の内容紹介に移ります。
作品の舞台は近世のドイツ、いわゆる「三十年戦争」(1618年~1648年)の時代です。
日本史に当てはめると。公式ホームページ(外部リンク)に書いてあるとおり、「きりしたん算用記」、「獅子の城塞」、「白狐魔記 天草の霧」(思えばこれらはすべて日本と西洋を結ぶ作品ですね)あたりの時代ですが、三十年戦争自体は日本人にはあまりなじみがありません。
ただ、そこはヨーロッパの歴史ものをホームグラウンドとする並木さんが本領を発揮できる舞台ですので、特に予備知識がなくても大丈夫です。
そして、改めて考えてみるといわゆる「ルネサンス」が14世紀から16世紀ですので、本作品はその終盤から少し後の時代にあたります。
三十年戦争はカトリックとプロテスタントの間の宗教戦争であり、思想弾圧や魔女狩りが横行した暗い世相の時代ではありますが、すでにルネサンスの曙光はドイツにも届いているわけで、いわば時代の転換点。
古いものと新しいもの、両者が交錯するという意味では物語の舞台としてぴったりです。
実際、本作品のストーリーも、ヨハネス・ケプラー(演:原康義さん)という、学者とも占星術師ともいえる人物がキーになっていますし、主人公の天文学者ヨアヒムが、混乱し、ともすれば復古反動的になりがちな世界で真理を求める姿は、やはりこのような時代背景があってこそ輝くものでしょう。
そういった、宗教と理性、新しい時代の狭間で引き裂かれる姿を描いた作品といえば青春アドベンチャーの過去作では「サマルカンド年代記」や「1492年のマリア」に近い雰囲気の作品だと思います(そういえばいずれの作品もオリジナル音楽(本作品は日高哲英さん))。
そしてこの作品で印象的なのは、ある意味よく似たふたりの人物の生きざま・運命を対照的に描いていること。
例えば、主人公である天文学者ヨアヒム・ハインツェルと親友の司祭イザーク・シュバルツというふたりの若者。
例えば、スウェーデン王グスタフ・アドルフ(演:伊礼彼方さん)と傭兵隊長ヴァレンシュタイン(演:鈴木壮麻さん)というふたりの野心家。
例えば、王侯貴族のアマーリエ(演:朝夏まさとさん)と間諜のガブリエラ(演:水野ゆふさん)というふたりの女傑。
これにカトリックとプロテスタントという二大陣営の動きが絡んでいくわけであり、具体的には、ヨアヒムがスウェーデン側に、イザークが神聖ローマ帝国側につくことになった結果、幼馴染ふたりの視点から二元中継で物語は進んでいきます。
この辺はアドベンチャーロード時代の「西風の戦記」を思い出しました。

ただ、この二人の人物を対照させるという手法も、最後の「ふたりの女性」については、残念ながらあまり効果的に生かせなかったという印象が強いと言わざるを得ません。
そもそもアマーリエもガブリエラも後半はかなり出番が限定的でした。
物語最後がイザークとアマーリエの会話のシーンで終わるのは、本作品の最後を綺麗に締めるとても良い構成だとは思うのですが、途中からアマーリエが空気だったために、少し唐突に感じられました。
特にその直前の海宝さんの演技が素晴らしかっただけに余計にそう思えたのかもしれません。
また、作品全般を通じて、どちらかというと、ヴァレンシュタインを演じた鈴木壮麻さんを始めとして、グスタフ・アドルフ役の伊礼彼方さん、オクセンシェルナ伯爵(グスタフ・アドルフ王の側近)役の栗原英雄さんといった壮年の役者さんの存在感が素晴らしく、並木さんもそれを生かすような脚本づくりをされたように感じます。

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Hirokazu
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