時砂の王 原作:小川一水(青春アドベンチャー) - 格付:AA

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作品:時砂の王  
番組:青春アドベンチャー  
格付:AA+  
分類:タイムスリップ  
初出:2018年3月12日~3月23日(全10回)  
原作:小川一水  
脚色:山本雄史  
音楽:森悠也  
演出:木村明広  
主演:木内義一  

22世紀、謎の増殖型戦闘機械群ETとの戦いにようやく勝利しつつあった人類は重大な事実に気が付く。
ETは過去に遡行し、機械群と戦う能力を持たない過去の人類を滅ぼすことにより人類絶滅を目論んでいたのだ。
衝撃を受けた人類は、総力を挙げて人型人工知性体メッセンジャーを過去に送り込み、過去の人類と共同戦線を組むが一歩及ばず、ETはすでに400以上の集団をさらに過去に送り出した後であった。
追い詰められた人工知性体は、ETの最終目標を人類発祥の時代-10万年前-と断定、そこを絶対防衛線として強固な陣地を構築。
人類の歴史を食い荒らしながら過去に遡行するETと、人類発祥の時代を基地として迎撃を始めた人工知性体との最前線は、紀元3世紀の東アジアの小島に定められた。
「親魏倭王」を名乗る少女が治める島国に。



小川一水さんの作品が青春アドベンチャーで取り上げられるのは、2000年の「イカロスの誕生日」以来。
当時はライトノベル色の強い作品が多かった小川さんですが、2004年に「第六大陸」で初の星雲賞を受賞。
2006年(漂った男)、2014年(コロロギ岳から木星トロヤへ)でも星雲賞を受賞しており、すっかり本格SFの書き手として認知されるに至りました。
このブログでも、青春アドベンチャーで採用して欲しい作家さんとして2回(こちらと、こちら)に亘って記事にしています。
ただし、小川さんのいいところは、本格SFとはいっても、どこかライトノベル臭さというか、青臭さというか、そういったものを残していることだと思います。
完結直前の大作「天冥の標」もとてもスケールの大きなSF(惑星開拓ものであり、パニックサスペンスであり、スペースオペラであり、エロ小説(笑)であり…)ですが、読者置いてけぼりスノッブな「本格」ではなく、あくまで娯楽小説としての出来が良いのが素晴らしい。
本作品「時砂の王」も、そういった小川さんの一面がよく表れた外連味のある時間SFです。
というのも卑弥呼ですよ、卑弥呼。
時間SFといえば、やはり「歴史改変」は避けて通れないわけですが、日本史上初めて登場する「個人」である卑弥呼を使うといっただけでもうキャッチーと言わざるを得ない。
日本人なら誰でも知っているけど、その実像は謎に包まれている。
魏志倭人伝って、すごく著名ですが実は文字数で2000字程度しかないのだそうです。
本作品、ストーリー全体が極めてヒロイックでもあり(逆に主人公のオービルにとってはパーソナルな話、というのも最近のラノベ風)、とても聞きやすい話です。
小川一水さんの作品の入門編としてはぴったりの作品です。
小川一水さんご自身が認めているように、山本雄史さんの脚本によりストーリーの流れがラジオドラマ用に単純化されて、一層聞きやすくなっています。
そして終盤のたたみ方の原作との微妙な(?)違い。
以下のとおりこの「改変」は小川一水さんの了承のうえで行われたそうです。



ナレーションが実は作中人物によるモノローグ(後年に回顧している)というやり方は「ザ・ワンダーボーイ」や「ウォーターマン」(←パッと思いついただけで他にもあったような気がする)など、青春アドベンチャーでもよくある演出手法です。
本作品はこれとは異なりますが、アレクサンドル役の野田晋市さんがナレーションをやっていることは、アレクサンドルが例の虫の話しの「語り手」であることにオーバーラップさせているのだと考えると、よくできた締め方だと思います。
本作品を脚色されたのは山本雄史さん。
2004年から5作品続いた田村ゆかりさん主演の「タイムスリップ」シリーズのほか、2015年の「know~知っている」・「チョウたちの時間」、2017年の「UFOはもう来ない」など最近の青春アドベンチャーのSF系の作品を多く脚色されています。
本作品について、個人的には上記の流れの単純化を含め「全般的に随分とシンプルな作品になったなあ」という思い、あるいはナレーションが多すぎる(音響効果やセリフで極力処理してほしい)という思いはありますが、小川一水入門編としてはこれでよかったのだと考え、当ブログの格付けはAA+としました。
というか私が小川一水さんの原作作品に低い格付けを付けるわけはないんですけどね。

あと脚本ではないのですが、正直、NHK-FMで、ピコピコ音を多用するSF系の作品が多いのが気になっています。
本作品でも冒頭のオーヴィルの目覚めのあたりで多用されており、気になっていたのですが、その後はそれほどでもないので安心しました。
ピコピコ音は雰囲気づくりにとても使いやすいとは思うのですが、あれが出るだけで幼稚な感じがしてしまいます。
大変だとは思いますが是非濫用は控えていただきたいものです。

さて、主人公の人工知性体メッセンジャー・オーヴィルを演じるのは劇団「テノヒラサイズ」所属の木内義一さん(44歳)。
こういう中年の舞台俳優をさらっと主役にしてしまうのがまたNHKらしいところではありますが、改めて聞いてみるといい声ですねえ。
また、ヒロイン・卑弥呼を演じたのは元宝塚女優で朝ドラ女優の純名里沙さんです。
純名さんは「小袖日記」(2011年)にも「タイムスリップもので歴史上の人物を演じる」という同じ形で出演されていました。
ただ、純名さんは第5話終盤からしか登場しいないので、前半のヒロインは夢前ゆりさん演じるサヤカでしたし、さらに言うならば出演量という点からいえば本当のヒロイン?はメッセンジャーを統括・指揮する戦略知性体カッティ・サーク(通称「カッティ」、演:楠見薫さん)なのかも知れません。
このカッティ・サークという名前、個人的には19世紀のイギリスの帆船のイメージが強く、その船首像である魔女カティ・サーク
を、いわば水先案内人に例えているのかなと、当初思っていました。
でも、本作品のカティはその船首像のもととなった人を惑わす魔女そのもののイメージなんですよね。
そして卑弥呼がそれにカッティの正体(というほど悪意があるい訳ではないけど)にいち早く気が付いたのは、彼女自身が「能惑衆」(能く衆を惑わす)存在だったからかもしれないと考えると何とも皮肉に感じます。

最後にやはり森悠也さんの音楽について言及しないではいられません。
青春アドベンチャーには4作品目の楽曲提供になる森悠也さんですが、本作品のオープニングテーマはドラマチックでエモーショナル。
外連味のある本作品にとてもあっています。
この曲だけで随分と盛り上がりが増しているように感じます。

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Hirokazu
Posted byHirokazu

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