ミラーボール 作:中澤香織(FMシアター) - 格付:AA

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作品:ミラーボール  
番組:FMシアター  
格付:AA+  
分類:職業  
初出:2016年6月4日(全1回)  
作 :中澤香織  
音楽:澁江夏奈  
演出:一瀬絵里  
主演:谷村美月  

どうやら私はとんでもないブラック企業に転職してしまったみたい。
正確には企業ですらないのだけど。
従業員が自分を含めて3人しかいないのは仕方がない。
実はこの靴下ブランド“リノ・ブロードリ”はあくまでデザイナーである莉乃さんの個人事業だった。
つまり、営業や事務を一手に切り回している若葉さんでさえ立場はフリーのバイト。
まして雑用係の私なんか…
キラキラしたオリジナルの靴下を見て、ここでなら自分も輝けると思って飛び込んでみたけど。
やっぱり私はキラキラ輝くミラーボールに憧れて、そのまわりを飛びまわるだけの虫なのかもしれない。



本作品「ミラーボール」は中澤香織さん脚本によるオリジナルラジオドラマです。
NHK-FMで中澤さんは、2013年に「リテイク・シックスティーン」(豊島ミホさん原作、青春アドベンチャー)、2014年に「婚礼、葬列、その他」(津村記久子さん原作、FMシアター)と原作付きの作品を2本、脚色された後、満を持して(?)オリジナル脚本の作品を発表されています。
それが、2015年の「もう一度、夫婦で」であり、2016年のこの「ミラーボール」です。
あくまで個人的な感想ですが、「リテイク・シックスティーン」はまずまずの佳作、「もう一度、夫婦で」は…。
しかし、本作品「ミラーボール」はなかなかの良作です。

まず、恋愛要素がほとんどない。
本作品、脚本(中澤香織さん)、演出(一瀬絵里さん)、音楽(澁江夏奈さん)、主演(谷村美月さん)など、主要なスタッフ、キャストが全員女性です。
女性だから恋愛を絡めがちなどというつもりはないのですが、本作品、恋愛要素を入れたらずいぶん陳腐な作品になったと思います。
あくまで「お仕事を通した成長」の物語。
だからいいんです。
恋愛映画は選ばない」あたりとはこの辺が違うところ。

そして作品全体の雰囲気も悪くない。
老いや死別、離婚や無気力な若者といった、FMシアターではあまりに定番となっているような鬱要素がないのが大きいですが、時々挟まれるポエム(チカコがブランドの宣伝用に書いているブログ、という扱い)の調子はずれの明るさもいいアクセントになっています。
といっても描かれている仕事風景が甘々で、チカコが悠々と成長していく話ではまったくない。
社長の莉乃は基本的に人の気持ちがわからない人間。
ネットで見つけたASD(自閉症スペクトラム)の特徴「会話のやりとりがキャッチボールでなく、ドッジボール、ノック打ちのように攻撃的で一方的」(外部リンク)という表現をみると、ああこれだよ…と思わざるを得ない人物です。
社会に出ると実際、結構、こういう人はいるもので、こっちも社会人生活が長いと、直接向き合う立場にならなければそれなりの対処ができるようにはなります。
でも、零細企業で社長がこれってきついよねえ。
ま、往々にして独立する人ほど、こういう癖の強い人が多いのですが、こういう人は一見、人当たりが良かったり有能そうだったりして、周りを巻き込んじゃうのがタチが悪い。
実はこういうひとにも3種類くらいいて、①周りを不幸にしながらそれでも実績を積み上げていく人、②大騒ぎしたけど結局毒にも薬にもならない人、③単なるクラッシャーで回りを地獄に叩き落して投げ出しちゃう人、くらいに分けられる。
これが独立しちゃうと、①か③に収れんせざるを得なくなるからやっかい。
がんばれ、チカコ。莉乃さんが①であることを祈っているよ…
まあ、自分を「虫」と卑下する主人公チカコも、客観的にみると意外と行動力があるので、あなたなら何とかなるかもしれない。
私は「工場長」くらいの距離間で楽しく眺めているだけで良しとします。

なんだかいつになく過激なことを書いている気もしますが、実はこの作品を聴く前日に、後者のタイプの人の顛末を仕事先で聞いてしまいまして、他人事とは思えなかったという理由があります。
そうはいうものの、実は私の心のどこかにも、「じんわりとした小さな面白み」を集めて頑張るチカコへの共感、莉乃のような人間をバッサリと切れない憬れに似た思いがあるを感じます。
私も結局、虫なのかもしれませんね。
もしそうなら飛び込んでいるチカコのほうが100倍、立派です。
でも大丈夫かなあ~

さて、本作品、上で書いた通り、NHK大阪局の制作で主演の谷村美月さんも大阪出身。
ニコイナ食堂」などでは大阪弁のセリフも披露していただいた谷村さんですが、なぜか本作品は全編標準語。
そのほかの出演者である、ボスの莉乃役の吉谷彩子さんや、先輩である若葉役の栁澤美由紀さん含めて登場人物全員が標準語を話します。
大阪局の作品はむしろ関西弁がデフォルト(「屋上デモクラシー」とか「レインツリーの国」とか「電気女護島」とか「プリンセス・トヨトミ」とか)なので、その面では大阪局らしくない作品です。

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本作品は、当ブログが実施した2016年のFMシアター人気投票で第1位になりました。
詳細はこちらをご覧ください。
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Hirokazu
Posted byHirokazu

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