赤川次郎の冬の旅人 (ドラマ/FMシアター) - 格付:AA

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作品:赤川次郎の冬の旅人  
番組:ドラマ(FMシアター)  
格付:AA-  
分類:推理  
初出:1988年5月7日(全1回)  
原作:赤川次郎  
脚色:津川泉  
演出:保科義久  
主演:岡村喬生  

今世紀を代表するバリトン歌手、ディートリッヒ・F=D(エフ・デー)。
来日8回目の東京。
楽屋で公演の開始を待っている彼のもとに不審な電話がかかってきた。
曰く「『冬の旅人』をうたうと人が死ぬ。」
そしてその“予言”は実現してしまう。
公演が終わって楽屋に戻った彼の前に死体が横たわっていたのだ。
関係者として公演後も日本に残り捜査に協力することを要請されるF=D。
要請に応えることにした彼だが、しかし事件はこれだけでは終わらないのだった。



赤川次郎さんといえば昭和の日本を代表する流行作家。
「三毛猫ホームズ」などライトなミステリーやファンタジー作品で良く知られています。
NHK-FMでも名作「ふたり」など多くの作品がラジオドラマにされていますが、本作品「冬の旅人」はその中でも一番、大人向きのしっとりとした作品です。
ちなみに本ラジオドラマは「赤川次郎の冬の旅人」というなぜか作家名の入ったタイトルの作品ですが(原作小説は単に「冬の旅人」)、本作品の翌年、アドベンチャーロードでも同じようにタイトルに作家名の入った「赤川次郎の天使と悪魔」が制作されました。
似たような形式のタイトルの両作品ですが、作品の性格は全く異なり、「天使と悪魔」は天使と悪魔が出てくるドタバタ・ファンタジック・ミステリーです。
赤川さんの作家としての幅の広さが現れていると思います。

さて、本作品の主人公であるディートリッヒ・F=Dは、一応伏字にはしておりますが、モデルは実在のバリトン歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウなのでしょう。
また、彼の友人の音楽評論家“吉田”も、NHK-FMで「名曲のたのしみ」のパーソナリティをしていた吉田秀和さん(ドイツ語も得意)がモデルなのだと思います。
そのモデルに配慮してか、このラジオドラマ版「冬の旅人」は音楽面が本格的であるのが最大の特徴。
そもそも、音楽を題材にした作品で、実際に音を鳴らすことができるという点では、小説よりラジオドラマが圧倒的に有利です。
それに加えて本作品は、主人公のF=D役を歌手の岡村喬生(おかむら・たかお)さんに演じさせるという仕掛けをしています。
バス歌手が本業の岡村さんですが、早稲田大学在学時に歌手として活動を始めたころはバリトン歌手だったそうです。
本作品において岡村さんが歌っていると明示されているのは作品終了後の「セレナーデ」(シューベルト)だけなのですが、下記の記事では岡村さんは「冬の旅」を50年以上歌い続けているとのことなので、作中で何度も流れる「冬の旅」の歌声は岡村さんご自身のものなのだと思います。
まさにこれ以上はない配役です。

(外部リンク) 57年歌い続けた「冬の旅」- 岡村喬生リサイタル -

本格的といえば、「演奏」として、ピアノの渡辺康雄さん(上の外部リンクでも登場しますね)、ヴァイオリンの室谷高廣さん、フルートの大和田葉子さんが紹介されており、作中どうしても必要になる演奏シーンを本作品のために一流の演奏家が演奏しているようです。
結果として、本作品は全90分のうち半分くらいはクラシックが流れているだけという、ラジオドラマとしては特異な作品になっています。
ラジオドラマというより、半ばはクラシック音楽番組。
たまにはこんな作品も面白いと思います。

そして岡村さんの演技もなかなかうまい。
岡村さんの本業はもちろん歌手・音楽監督なのですが、テレビドラマに出演経験があるからかもしれませんが、鷹揚な声楽家の雰囲気がよく出ています。
なにより声がいい。
友人の吉田を演じる柳生博さんとの会話シーンなど、声がよいお二人による掛け合いに聞きほれてしまいます。
まあ、言い換えれば、親父のぼそぼそ話が多い作品ともいえますが。

一方、ミステリーとしては正直なところ、薄味です。
日本にとどまらざるをえなくなったF=Dに対して、日本音楽界の大パトロンである大木夫人(演:河内桃子さん)が宿の提供を申し出る。
そして、知り合いの演奏家を集めて「ディートリッヒ・F=Dさんの歓迎の夕べ」なるミニ音楽会を開くのですが、そこで新たな事件が起きます。
登場人物は、F=Dと吉田、大木夫人の家族、そして「夕べ」で演奏する演奏家たちだけ。
大木夫人の娘である博子(演:宮崎美子さん)とF=Dのロマンスもかなりあっさり。
事件自体が、ホームズ役たるF=D、ワトソン役たる吉田の力量に関わらず(笑)、割と簡単に解決します。
しかし主題であるシューベルトの「冬の旅」が、F=Dの立ち位置や解決のヒントに随所で結びついてくるのは、なかなか上品かつ楽しい趣向でした。
「私はよそ者としてこの街に来た。今また、よそ者として街を離れる。」
「女が愛するのは必ずしもいい人ではない。いい人は人生の悲しき旅人である。」
といったような「冬の旅」由来の言葉も、この落ち着いた作品だからこそ印象に残るのだと思います。

【保科義久演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
名作、迷作、様々取りそろっています。
こちらを是非、ご覧ください。

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Hirokazu
Posted byHirokazu

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