青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

夕凪の街 桜の国 原作:こうの史代(FMシアター)

作品:夕凪の街 桜の国
番組:FMシアター
格付:AA+
分類:日常
初出:2006年8月5日(全1回)
原作:こうの史代
脚色:原田裕文
演出:真銅健嗣
主演:夏八木勲

ぜんたい この街の人は不自然だ
誰もあの事を言わない
いまだにわけがわかないのだ
わかっているのは「死ねばいい」と誰かに思われたということ
思われたのに生き延びているということ
そしていちばん怖いのは
あれ以来
本当にそう思われても仕方のない人間に自分がなってしまったことに
自分で時々気づいてしまうことだ

(すみません、ここはいつも自分なりのあらすじを書くのですが、本作品では原作から引いた上記以上の文章を思いつきませんでした。今回は原作「夕凪の街 桜の国」16ページからの引用でご容赦ください)

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「選んだ素材の勝利」。
このラジオドラマを聴いた際の偽らざる印象です。
もともと私は、こうの史代さんの原作漫画「夕凪の街 桜の国」を先に読んでおり、その漫画としての出来の良さにとても感銘を受けていました。
「漫画としての出来の良さ」と書きましたが、この原作漫画は原爆を扱った作品であり、とかくその角度から評価を受けることの多い作品です。
しかし、個人的には、「夕凪の街」「桜の国(一)」「桜の国(二)」の3部構成を時代と登場人物を複雑に組み合わせながら全体として破綻なく語りつくす構成力や、深刻な内容と時々織り交ざる気の抜けたギャグを嫌味なく調和させる独特の雰囲気作りにも着目すべきだと思っています。
そういったこうの史代さんの漫画家としての力が、この難しいテーマの作品を、漫画というエンターテイメントの媒体上で成立させている最大の要因だと思います。

さて、という訳で原作ファンの私がこのラジオドラマの感想を書くと、どうしても原作と比較したものにならざるをえないことをご容赦いただきたいと思います。
ここで、まず最初に述べるべきは、FMシアターの全50分という枠の問題。
薄めであっても、小説や漫画の丸1冊をラジオドラマにするには、いかんせん短すぎる枠です。
以前、記事を書いた「レインツリーの国」もかなり的を絞った脚色をしていましたが、本ラジオドラマでも原作の「桜の国(一)」(1987年時点)をばっさりとカットして、「夕凪の街」(1955年時点)と「桜の国(二)」(2004年時点)に絞っています。
このうち前半約25分を占める「夕凪の街」部分はセリフや流れが概ね原作準拠。
ただ、ボーイフレンドの打越(うちこし)や(原作の)主人公の皆実(みなみ)をはじめ全般に登場人物の演技がハキハキしていることと、ラジオドラマの性質上音がそのまま表現されてしまうという媒体の違いからか、幾分生々しい表現になっており、原作の持つ「淡々とした悲しみ」というのとは少しだけ違った雰囲気になっています。
もともと救いのない結末ではありますが、一層、きついというか…
クライマックスにおける皆実の「嬉しい」が原作とは違った使い方をされているのは、脚本家の方がその分を多少なりとも緩めようと思ったからかも知れません。
そして演出面では、後半に旭(あさひ)役を演じる夏八木勲さんが前半のナレーションを担当しており、そのまま「私」という形で後半へと移行していきます。
そう、このラジオドラマ、全体の主役が旭なんです。
原作では「夕凪の街」の主人公が皆実、「桜の国」の主人公がその姪の七波(ななみ)なのですが、両方の時代をつなぐ人物として旭をナレーション兼主人公に据えたのは、コンパクトに作品をまとめるなかなか良い工夫だと思います。

そして後半の「桜の国(二)」はかなり脚色により変更されている部分が多くなっています。
年を取った打越さんにセリフがあるのは良いのですが、正直オリジナルのセリフやフレーズ(「呪い」とか)にピンとこないものが多いのに加え、前半以上に(原作上の)主人公・七波(ななみ)とその友人・東子(とうこ)の演技が感傷的で大げさなため(原作でも七波は衝動的な人物ではありますが)、原作の持つ独特の「軽さ」がうまく表現できていないように感じました。
これは「桜の国(一)」が省略されたことにより、七波の弟・凪生(なぎお)と東子(とうこ)の関係が掘り下げられなかったことに象徴されるのですが、やはり全般に尺が足りず細かい部分、特にギャグが織り込めなかったことが原因にように感じます。
あとタイトルが「夕凪の街」と「桜の国」だからといって、無理矢理に「夕凪」や「桜」に特別な意味付けをしなくてもよかったのでは?
原作でもそんなに無理にタイトルにつなげようとはしていなかったと思います。
少し野暮に感じました。

……などとかなり否定的なことも書いてしまいましたが、誤解なきように書きますと、このラジオドラマも十分、良作です。
もう前半の皆実のセリフや、後半の(回想部分で出てくる)京花のセリフを聴いているだけで泣けてきそうです。
ただ原作が傑作すぎますので…
残念になった最大の原因と思われる尺の都合についても、「夕凪の街」だけに絞ることもできたはずで、実際、連作形式の作品で(恐らく)尺を考えて途中までに絞った「青春離婚」のような成功例もあります。
しかし、この「夕凪の街 桜の国」は、直接的な「原爆漫画」ではなく、「被ばく漫画」あるいは「被ばく差別漫画」であり、原爆直後の惨禍ではなく、原爆後の50年間の日常を描くことで間接的にテーマを伝える作品だと思います(そのため、このブログでのジャンルは敢えて「日常」にしました)。
その点で窮屈ながらも全体を含んだこの構成で正解だったと思います。
ただ、惜しむらくは登場人物たちにもう少しのんびり話して欲しかったなあ…

さて、最後に出演者について紹介ますと、ラジオドラマ版の主役たる石川旭を演じたのは夏八木勲(なつやぎ・いさお)さん。
アクションドラマや時代劇(特に忍者の役が多かった。個人的には「真田太平記」かな。)で随分とお見かけした夏八木さんですが、惜しくも2013年に73歳で亡くなられています。
また、前半の実質主役の平野皆実を演じたのは斉藤とも子さんで、後半の実質主役の石川七波を演じたのは鈴木佳由(かゆ)さん。
その他、打越役の阿南健治さん、旭の母(ラジオドラマ版では名前は出ないが原作では平野フジミ)役の小林トシ江さん、利根東子役の矢沢心さん、石川凪生役の大和田悠太さん、太田京花役の三村ゆうなさんあたりが主なキャスト。
押入れのちよ」や「バスパニック」もそうなのですが、ちょっとのんびりした女の子をやらせると三村ゆうなさんは絶品ですな。
三村さんに「うちねえ、赤ちゃんの時、ピカの毒に当たったん…ほいで足らんことなってしもうたんと。」などどいわれると、もう全力で「そんなことない!」って言いたくなってしまいます。
特殊な(どういう?)趣味があるわけでないですよ、念のため。
また、大和田悠太さんは「封神演義に出演されている大和田伸也さんの息子さん
名探偵なんか怖くない」に出演されている大和田獏さんは、いうまでもなく叔父さんです。

最近同じ「こうの文代」さん原作のアニメ映画「この世界の片隅に」がヒットしているようです。
映画をクラウドファンディングで成功させた稀有な例という意味でも注目されているのだと思いますが、それ以前に原作・アニメとも丁寧な作りがヒットの最大原因だと思います。
ただ、個人的にはこうのさんの作品をひとつ選ぶならやはりこの「夕凪の街 桜の国」かな。
是非、ラジオドラマを聴かれた方は原作にも手を出してみてください。
おすすめです。


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東の国よ! 作:福田義之(FMシアター)

作品:東の国よ!
番組:FMシアター
格付:AA-
分類:歴史時代
初出:2013年9月21日・9月28日(全2回)
作 :福田善之
音楽:日高哲英
主演:成河

1929年、日本の女性研究者は、イギリスの片田舎でようやくアーノルド・モロウを探し当てた。
アーノルド・モロウ。
文久2年に通訳として日本に来て以来、類まれな語学力と未知の世界に対する強い好奇心、そしてあくなき情熱で、明治維新の時代を日本人とともに駆け抜けた男。
彼の残した回顧録「いちヨーロッパ人の見た明治日本の変革」は、明治維新前後の日本を知るための第一級の資料とされている。
しかし、彼の回顧録には、ある重大な欠落がある。
鳥羽伏見の戦い前後の記録が混乱し、間違いも散見されるのだ。
これはモロウが意識的に行ったことではないか。
記録に残せない、あるいは残したくない、何かがあったのではないか。
すっかり年老いて反応も薄くなっているモロウの前で、研究者は自らが知る当時の時代背景を語り始める。
彼の証言を得るために。

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本作品「東の国よ!」は、NHK-FMのFMシアターで放送されたオリジナル脚本のラジオドラマです。
FMシアターは通常、土曜日の午後10時から50分程度の枠で、毎回1回完結のラジオドラマを放送する番組です。
本記事をアップする1か月ほど前の2017年7月22日・29日に前後編2回で「異人たちとの夏」が放送されていましたが、これはかなりレアなケースです。
「異人たちとの夏」の以前に2回連続で放送された作品を探してみると、実は2013年初出の、この「東の国よ!」まで遡ります。

さて、本作品は明治維新前後の日本に滞在していて日本びいきの架空の外交官アーノルド・モロウを主人公とする作品です。
「架空の」と書きましたが、このモロウには公式ホームページでも明示されているモデルとなった実在の人物がいます。
その人の名はアーネスト・サトウ。
ドイツ人の父とイギリス人の母を持ちロンドンで生まれた彼は、モロウと全く同じ文久2年にイギリスの駐日公使館の通訳生として来日しています。
ちなみには、私、「サトウ」という名字から、ずっと日系人(例えば漂流民の子孫とか)だと思っていたのですが、実はスラブ系の希少姓“Satow”で、「佐藤」とは基本的に無関係なのだそうです。
本記事を書くにあたって知った時にはちょっとした驚きでした。
なお、あくまで後付けですが、彼は日本では「佐藤」や「薩道」などの日本名を名乗っていたそうです。

とにかく、そのサトウの行動をベースに、彼の心情などをフィクションとしてミックスしたのが「モロウ」なのでしょう。
そのモロウと、北村有起哉さん演じる医師のウィリアム・ウォレス(通称「ビリー」または「BB(ビッグビリー)で、実在の人物としては「ウィリアム・ウィリス」。)のふたりを中心に物語は進んて行きます。
モローもビリーも、日本に極めて好意的でかつヒューマニズムあふれるコスモポモリタンです(当初のビリーの言動はそうでもありませんが)。
しかし、彼らはあくまでエトランゼ(異邦人)。
日本人と日本の美しさ、愚かさに関心を寄せ、深く関与しつつも、日本人の精神性に完全には共感することができず、精神的にも立場的にもどうしても日本の「内側」には入れないまま時代は過ぎ去っていきます……???って、どこかで聞いたような?
あっ、そういえば、「人間という不思議な存在に興味をひかれつつ、武士の愚かさに絶望することを繰り返す化け狐の話」があったような(笑)。
そういえば主演も同じ成河(ソンハ)さんじゃないですか。
私は例のシリーズを全部聞き終えてから、聴き洩らしていたこの「東の国へ!」を聴いたため、どこかで聞いていたような感じを受けてしまったわけですね。
改めて考えると「元禄赤穂事件」で終わっている「例のシリーズ」ですが、思いもよらない形で成河さんの語る「武士の時代の終焉」を聴くことができたと思うと、不思議な感慨があります。
まあ、単純な娯楽作品の「例のシリーズ」とは全然違って、本作品はいたってまじめな作品なんですけどね。

さてさて、物語は鳥羽伏見の戦いから会津戦争までをクライマックスとして、その後の経緯はばっさりと省略されています。
特に中心となるのは平田広明さん演じる「シロー」。
官軍の先鋒隊を率いて東山道を鎮撫して回りながら、最終的には官軍に切り捨てられ処刑されてしまう悲劇の人物ですが、これにも明確なモデルがいます。
先鋒隊はいわゆる「赤報隊」。
シローのモデルはその隊長であった相良総三でしょう。
漫画「るろうに剣心」にも主要登場人物である相良左之助の縁者として登場する相良総三ですが、最近の研究では総三自身にも相当の後ろ暗いところはあったようで、単なる悲劇とも言い切れないようです。
本作品の脚本を書かれたのは、本作品公開時点で81歳の大御所脚本家・福田善之さんですが、この辺のシローの扱い、そしてシローとモロウとの深い関わりが現実とかけ離れていることから、名称を変えてのフィクションになったのではないかと推測します。

いずれにせよ、この歴史改変?により物語のドラマ性は大いに増しており、日高哲英さんのあくまで落ち着いていながらスケール感のある音楽と相まって、大河ドラマ的なエンターテイメント性とテーマ性を両立させた作品になっています。
演出面でも、幕府役人の堅苦しい答弁を、あえて女性の松金よね子さんに演じさせたり(「女のように高い声で話す」とはモロウによる日本人役人に対する感想)、役人のモブを音楽劇的に拍子を付けたせりふ回しで表現してみたりしています。
個人的には、作品最後の「演劇が終わった際のような拍手で終わるメタ演出」(なのか?)は、制作側の自己満足のように感じてしまいましたが、全般的に、飽きの来ない凝った演出で素直に楽しめる作品でした。


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