青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

学問ノススメ-挫折編 原作:清水義範(サウンド夢工房)

作品:学問ノススメ-挫折編
番組:サウンド夢工房
格付:A+
分類:少年
初出:1990年4月2日~4月13日(全10回)
原作:清水義範
脚色:津川泉
演出:大沼悠哉
主演:松下一矢

「いいかぁ! これからの1年だ! この1年の過ごし方で、胸を張って生きていけるようになるか、敗北感を持って生きていかなきゃならんのかが決まる。お前等、こんなにやりがいがある時はない!」
壇上で予備校の教師が、がなりたてている。
何でこんなことになってしまったんだろう。
そう、キビオカ大学の入学試験で、あんな問題さえ出でなければ、今頃は楽しいキャンパスライフを満喫していたはずなのだ。
青春真っ盛りの時期なのに、1年間も浪人生なんていう憂鬱な立場で過ごさなければならないなんて。

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清水義範さんは、1970年代から主にジュブナイル系のSFで作家生活をスタートした方です。
しかし、1980年代後半以降はパロディ小説、推理小説、青春小説などに活躍の場を広げ、「金鯱の夢」(歴史小説?)、「虚構市立不条理中学校」(不条理コメディ)、「柏木誠治の生活」(日常ユーモア小説)の3作品では直木賞の候補にもなりました。
NHK-FMのエンタメ系・帯ドラマ枠でも、本作品を含めて5作品がラジオドラマ化されています。
この5作品を時系列的に振り返ると、「怪事件が多すぎる」・「怪事件が多すぎるⅡ」(ファンタジー風ミステリー、アドベンチャーロード1987年)、「学問ノススメ-挫折編」(青春もの、本作品1990年)、「尾張春風伝」(歴史もの、青春アドベンチャー2007年)、「バードケージ 一億円を使い切れ!」(少年サスペンス、青春アドベンチャー2008年)と、清水さんの文筆経歴を網羅するような幅の広いジャンルです。

さて、上記のとおり、本作品「学問ノススメ-挫折編」は清水さんがジュブナイルから一般への活動の幅を広げた時期の作品です。
そのため、本作品にはSF要素や超常現象は一切なし。
浪人生日常を、あくまで浪人生の目線から、面白おかしく切り取っていきます。
といっても主人公・津吹淳一(つぶき・じゅんいち)は別段面白いことをしている意識はなく、浪人生のトホホな日常をモノローグを交えながら淡々と表現していきます。
とはいえ淳一の生活は灰色一色ではありません。
後半はいわば「恋愛編」というべき内容になっています。
「浪人生なのに恋愛編?いいのか?」
というご意見もあろうかと思います。
良いわけありません。
終盤はなかなかの修羅場です。
淳一君、それなりの屑人間な訳ですが、まあ聞いていると「仕方がないかな」とも思える流れにはなっています。
その辺は作劇上のうまさだと思います。
淳一を演じているのは俳優の松下一矢さんなのですが、松下さんは本作品の3か月前に放送された「最後の惑星」でも主役に準じる役を演じていらっしゃいます。
「最後の惑星」では主人公レーマンの息子役でいかにも子供風な演技だったのですが、本作品では立派な浪人生風。
調べてみると本作放送当時21歳でしたので、今回の淳一の方が実年齢に近く、やりやす役だったのではないかと思います。

また、この浪人生活を描いた作品がどことなく楽しげになっているのは、やはりキャラの立った浪人仲間の存在。
いかめしい名前とは正反対のおかま言葉で話す大道寺裕二や、気弱で「サド・ロリ」という強烈な趣味を持つ吉沢康伸がその典型なのですが、このふたりどうも小川裕之さんという一人の方が演じ分けているようです。
そして強烈と言えばやはり印象的なのは千葉繁さん。
千葉さんのメインの役は高校時代からの一番の友人・片山隆博なのですが、こちらは「アルバイト探偵」のナレーションや「これは王国のかぎ」の砂漠の行者役に近い抑えた演技。
むしろ予備校講師役の方で、TVアニメ「北斗の拳」の予告編を彷彿とさせる名調子(迷調子?)を朗々と披露してくれます。
本作品、現代の受験勉強、進学制度についての辛辣な目線が一つの味になっているのですが、それを戯画的に際立だせるために千葉さんの演技がとてもよくあっています。
でも、揶揄の対象とするために戯画的に描かれているはずの予備校講師の言葉に、一定の説得力を感じてしまうあたり、聴いていて我ながら年を取ったものだと思いました…

さて、本作品、アドベンチャーロードの後を受けて始まった新番組「サウンド夢工房」の一番最初の作品でした。
「サウンド夢工房」は前番組の「アドベンチャーロード」、後番組の「青春アドベンチャー」と違い、番組自体のテーマ曲(丸山みゆきさんの「涙ながすその前に」)があるという特徴がありました。
このテーマ曲を冒頭と最後に流すため、どうしてもドラマ自体の時間は短くなってしまっています。
本作品の場合、本編終了後に毎回、「学問ノススメ番外編 格言ノススメ」のミニコーナーがあるため、さらにドラマパートが短くなっています。
「格言ノススメ」で述べられた各界の格言は以下のとおりです。

第1回:「学問は尻から抜ける蛍かな」与謝蕪村
第2回:「お天道様には勝てない」はるまきとめさく
(↑出典がわかりません。もしかしてギャグ?ご存知の方はご教示を。)
第3回:「毎朝必ず良い考えをもって始めなさい。心配やため息で始めることだたけはしないことです。そうすればあなたは一日中、暗雲を突き破る日光をわずかなりとも持てるでしょう」ヒルティー
第4回:「問うていわく、苦を去って楽しみを求むる道はいかん。答えて云う、学問なり。」中江藤樹
第5回:「教育とは点数、卒業証書、就職、月給である。」エル・カウフマン
第6回:「我我の自己 欺瞞 ( ぎまん ) は一たび恋愛に陥ったが最後、最も完全に行われるのである。」(芥川龍之介)

第7回:「ラブなんていうもこはそんなに大騒ぎするようなもんではないんだね。つまり飯を食うようなもんさ。」島崎藤村
第8回:「辛いことをやるのも一生、楽なことをやるのも一生」林芙美子
第9回:「とにかくね、生きているのだからインチキをやっているのに違いないのさ。」太宰治
第10回:「闇があるから光がある。そして闇から出てきた人こそ、一番本当に光の有難さが分かるんだ。」 小林多喜二
※第10回は他にも世阿弥、夏目漱石、三宅雪嶺の格言を紹介しています。

なお、この「学問ノススメ-挫折編」、原作は「奮闘編」、「自立編」と続いたようですが、ラジオドラマはこの「挫折編」まで。
ちょっと残念です。
また、2007年にTV朝日系列でテレビドラマ化もされています。
「土曜ナイトドラマ」枠全8回で津吹淳一役は俳優の中尾明慶さんだったようです。


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