青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

オリガ・モリソヴナの反語法 原作:米原万里(青春アドベンチャー)

作品:オリガ・モリソヴナの反語法
番組:青春アドベンチャー
格付:AAA-
分類:サスペンス
初出:2016年7月18日~8月5日(全15回)
原作:米原万里
脚色:丸尾聡
演出:真銅健嗣
主演:西山水木

オリガ・モルソヴナと出会ったのは、1960年代のチャコの首都プラハにあったソビエト学校でのこと。
私、弘世志摩はこの学校に通う小学生だった。
オリガは、老齢ながらダンス教師として卓越した技術を持つと評判だった。
しかしそれ以上に彼女を有名にしていたのは、ただでさえ罵り言葉の宝庫と言われるロシア語を駆使し、罵詈雑言を浴びせかける天才だったこと。
その最も特徴的な表現方法は反語法。
彼女にかかると「美の極致!」という言葉さえも、圧倒的な皮肉へと変わるのだ。
しかし、オリガの過去に何か謎のようなものが見え隠れることが小学生であった私にも分かった。
そして1992年。
大人になった私はモスクワへと飛ぶ。
永年の疑問だったオリガの過去を知るために。
そこで待っていたのは、悲劇の現代史を生きた3人の女性の物語だった。

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2006年に56歳で夭折されたロシア語同時通訳者にしてエッセイストの米原万里さんの処女小説「オリガ・モリソヴナの反語法」を原作とするラジオドラマです。
米原さんは1995年にエッセイ「不実な美女か貞淑な醜女か」で文壇にデビューし、2001年には「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
満を持して発表した本作ではBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞するなど小説家としても将来を嘱望されたわけですが、本作を書き上げた直後に卵巣がんが発覚。
3年後には死去されましたので、本作品は米原さんに取っては数少ない小説作品となりました。

さて、本作品の主人公の志摩(シーマチカ)は序盤の3回分以外は中年の女性です。
そして本作品のキーパーソンであるオリガ・モリソヴナは老女。
最近の青春アドベンチャーは対象年齢がかなり低い作品を採用することもあるのですが、本作品はびっくりするほど大人向きの作品です。
びりっかすの神さま」、「クラバート」など子ども向きでもなかなかの良作もあるのですが、やはり大人っぽい作品を聞きたい今日この頃。
この作品を作ったのは誰か?と演出の方の名前を見ると、やはり真銅健嗣さん。
真銅さんは、青春アドベンチャーきっての超大作封神演義」のほか、「精霊の守り人」、「ラジオキラー」のようなエンターテイメント作品の良作も担当されていますが、「赤と黒」、「蜩ノ記」といった大人向けの作品や、「妖異金瓶梅」や「穴(HOLES)」といった訳の分からない作品(褒めています)を多く担当されています。
本作品も真銅さんならではチョイスと言えましょう。

さてさて、本作品の内容は、志摩がベルリンの壁崩壊後のロシアを巡り、ロシア/ソ連の現代史の裏側を辿りながら、オリガの謎を解き明かしていく物語です。
物語のスタートはチェコのプラハですが、「プラハの春」のように民主化自体がテーマになることはなく、第3回に時間は約30年後に飛び、志摩の探索が始まります。
オリガ・モリソヴナと、もうひとりの不思議な教師エレオノーラとの関係は?
「シベリアのアラスカ」とは何か?
そして、やがて見えてくる「ふたりのオリガ・モリソヴナ」の真相は?

本作品、基本的に志摩とその親友のカーチャがロシアのいくつかの場所を巡り、人と話しながら、真相を探していくだけの地味な話です。
もちろんアクションシーンなどかけらもありませんし、男女の恋愛も……まあ、ありますが、それが作品の主題ではありませんし、明かされる真相も、強制収容所(ラーゲリ)や秘密警察(NKGB=エヌカーゲーベー)絡みのひたすら悲惨なものばかり。
しかし、後半から終盤にかけて一気に真相がわかっていく流れ、そして残った真実、つまり、心が壊れていると思われたエレオノーラが実は抱え込んでいた思い、作中最悪の人物として描かれているミハイロフスキーがわずかに見せる人間性、オリガが"あの"オリガになった理由、そしてオリガの反語法に秘められた権力や権威そしてどうしようもない運命に対する反骨心が明らかになる様は、とても感動的です。
まあ、冷静に考えると、オリガと特別な関係にあったジーナの行方に絞って最初から探していればすぐに真相にたどりついたのではないかという気もしますが…

ところで話は変わりますが、原作者の米原万里さんは、共産党の衆議院議員を父に持ち、自らもチェコのプラハでソビエト大使館付属学校に通っていた方です。
カール・マルクスの思想に共感を示していたそうですし、そういう意味ではソ連を擁護するような内容にしそうなものですが、本作品は徹頭徹尾、ソ連の悲惨で非人間的な裏面描いています。
考えてみると米原万里さん自身、偽悪的な悪口や下ネタが大好きだった方のようですので、元来が反体制・反権力であった(はずの)共産主義への信頼と、現実の体制(ソ連)への冷静な視線は特に矛盾することではないのかもしれません。

それにしても結局、「ソビエト社会主義人民共和国」とは何だったのか。
「共産主義」という美しい理想の下、人は、そして組織は、どうしてあそこまで堕落してしまうのか。
個人的な思いとしては、「みんな労働者の国」、つまり「みんな平等に貧しい国」などという理想が結局、聖人ならざる普通の人間には受け入れることはできないものだったのだと思います。
「アイツよりいい暮らしをしたい」、「アイツより権力をふるいたい」、「だって自分はアイツより少しだけかもしれないけど優秀なんだし、頑張ったのだから、差が付かないと納得できない。」
アメリカ合衆国の心理学者マズローの「欲求段階説」によれば、人間の欲求は、低次のものから順に、.「生理的欲求」 (Physiological needs)、「安全の欲求」 (Safety needs)、「社会的欲求又は所属と愛の欲求」(Social needs / Love and belonging)、「承認(尊重)の欲求」 (Esteem)、「自己実現の欲求 」(Self-actualization)の5段階に分けられ、最高位の「自己実現の欲求」に至ってやっと、自分や他人をありのままに受け入れられるようになるそうです。
先ほど書いたような思いを振り捨てて平等に邁進できるのは。それこそホー・チ・ミンやチェ・ゲバラのような本当に聖人(=変わり者)だけなのでしょう。
それは資本主義でも共産主義でも同じ。
結局は権力者の堕落をチェックする仕組みと権力者の交代を可能にする多様性のなさが悲劇につながったのだと思います。

…と、固い話はこのくらいにして、話は出演者に変わります。
本作品の主役を務めるのは西山水木さん。
青春アドベンチャーでは時々お名前をみかけるように思いますが、主演されるのは1997年の「顔に降りかかる雨」以来、およそ20年ぶりだと思います。
「20年ぶりの主演」
考えてみると青春アドベンチャーも凄い番組ですね。
また超重要人物のオリガ・モリソヴナを演じるのは銀粉蝶さん。
カフェテラスのふたり」時代の「10人のシンデレラ パートⅢ」で主演されていたのは1988年。
こっちは何と30年前です!
そのほか、カーチャ役の岡本易代さん、エレオノーラ役の大方斐紗子さんなど、とにかく中年、老年の女性のキャストが多い作品です。
あっ、例によって脚本の丸尾聡さんも出演されていますよ。



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