青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

走れ歌鉄! 作:今井雅子(青春アドベンチャー)

作品:走れ歌鉄!
番組:青春アドベンチャー
格付:AA-
分類:少年
初出:2016年2月1日~2月12日(全10回)
作 :今井雅子
音楽:澁江夏奈
演出:小見山佳典
主演:菊池銀河

戦争に負けた国は悲惨だ。
戦争孤児のような弱い立場の人間にとっては尚更だ。
「絶対に戦争には負けない」と言っていた大人達は、さっさと現状を受け入れて新しい生活を営んでいるが、戦争孤児達の日常は相変わらず戦いなのだ。
でも占領国には媚びない。
占領軍の軍人の靴を磨くときには下を向くが、心は常に前向きだ。
だから「東の都」に行くのだ。
行って、「少年少女歌合戦」で一等を取ってどん底から脱出するのだ。
東の都まで行くお金がない?
でも、軍需工場の焼け跡には、豆蒸気機関車が残っているらしい。
あれさえ動かせれば、東の都にだって行けるはずだ。

―――――――――――――――――――


オレたちみなしご 戦争孤児
親なし家なし 金もなし(※)
闇市まわって 靴磨き
地べた這いずり モク拾い
浮浪児浮浪児 鼻つまみ
寄ってくるのは ノミ・シラミ


「浮浪児の歌」が印象的な本作品「走れ歌鉄!」は、過去に「アクアリウムの夜」(2002年)及び「びりっかすの神さま」(2014年)という2本の原作付きの作品で良脚本を書かれた今井雅子さんによる、青春アドベンチャーでの初のオリジナル脚本作品です。
また、演出の小見山佳典さんと音楽の澁江夏奈さんは2013年の「僕たちの宇宙船」以降、約2年半で本作含め6作品を制作された名コンビです。
このトリオが満を持して(?)放つ、「少年少女ミュージカル風オリジナルラジオドラマ」が本作品「走れ歌鉄!」なのです。

さて、近年でも「風神秘抄」(2006年)のように登場人物が歌ってしまう作品は多々ありましたが、ミュージカル風といっても良い青春アドベンチャー作品は、「少年漂流伝」(1998年)や「マドモアゼル・モーツァルト」(1992年)まで遡る必要があります。
しかも、その「少年漂流伝」もミュージカルというよりは「ヂャンヂャン☆オペラ」という特殊な形態ですし、「マドモアゼル・モーツァルト」もほとんどの歌はエリーゼ(モーツァルト)役の土居裕子さんのものです。
本作品のように、何人もの登場人物が自分の気持ちを歌に乗せる本格的なミュージカル風の作品は青春アドベンチャーの四半世紀の歴史の中でも稀有なものです。

本作品で主に歌うのは、主人公レン(演:菊池銀河さん)とその浮浪児仲間であるシドウ(演:大浦千佳さん)、ソウタ(演:河崎修吾さん)、ソラ(演:清水詩音さん)、そして大陸国(占領軍)とのハーフであるマリ(演:武田杏香さん)といった少年少女たち。
彼らが上記の「浮浪児の歌」を初めとする多くの歌を合唱するとともに、時には一人一人が自分の気持ちをセリフではなく歌にして歌います。
時にはセリフのやり取りではなく、歌のやり取りで気持ちを伝えるシーンもあったりして、かなりミュージカル色の強い作品です。
しかし、舞台が終戦直後で、主人公が浮浪児という如何にもお涙頂戴的な設定に加えて、子供が歌を歌うというあまりにも“狙った”演劇形態だったので、聴く前は特に期待していませんでした。
いえ、正直に言うと「子供が歌ったって泣きやしませんし、そんな安易に作られたっていい格付けなん付けませんよ、っていうか付けてたまるか」と思っていたのですが…
あれ?“AA-”って結構いい格付け付けちゃっいました?
なんで?なんででしょう?
…実際、泣きませんでしたし、ストーリーも単純です。
機関車を動かして目的地に向かうだけです。
もちろん道中では色々起こるのですが、登場人物はあくまで少年少女なので、「謀殺の弾丸特急」のようにヘリコプターから銃撃を受けたりするような劇的な展開はありません。
しかし、その結果として作中で起きるイベントが、石炭が足りないとか、水が足りないとか、はたまた、トンネルの中では煙を炊かないとか、坂道ではすべらないように気を付けるとか、機関車にとっては身近なものだからこそ、「機関車を動かしている感」は「謀殺の弾丸特急」以上にあります。
そういえば鉄道ものとしては、以前、青春アドベンチャー化して欲しい作品として小川一水さんの「失踪!千マイル急行」を紹介したことがあります。
鉄道って、まっすぐにしか進めないのになぜか、冒険心を掻き立てられるものがあり、その面では有利な題材だったのかも知れません。

さてさて、話を戻しますと、こういった蒸気機関車運行中のイベントは「石炭燃やせ~ 湯を沸かせ~♪」といってような歌で語られるのですが、これが意外と違和感がないのです。
そして、そもそも本作品の舞台を実際の終戦直後の日本にはせず、架空のどこかの国にしてファンタジー感を出していることも、この歌中心で、しかもやや現実味の薄い不思議な展開にマッチしていると感じます。
この辺は計算づくなのでしょうか。
そしてその肝心の歌にも工夫が。
終盤までは歌うのは少年少女ばかりだったのですが、第8回でついに、あの大人二人が自分の気持ちを歌に乗せ始めます。
そして第9回には、あっと驚くあの人が歌い、ちょっとびっくりしていたら、なんと最終回では思いもかけない、あの人物まで歌い始める始末。
この辺の仕掛けでは大いに盛り上がりました。
やはり本作品のように終盤に盛り上がる作品は印象が格段に良くなります。
ストーリー的にも、まあ先が読めてしまうストーリーではありますが、結末はあくまで気持ちよく終わります。
全般に、設定・ストーリー・出演者・音楽といった要素が、パッケージとしてよくまとまった作品だと思いました。

さて、この作品の紹介の最後には、やはりオリジナル音楽を提供した澁江夏奈さんに言及せねばなりますまい。
2015年に「ニコイナ食堂」や「人喰い大熊と火縄銃の少女」で鮮烈な音楽世界を構築していた澁江さんですが、本作は「歌」というまた一味違った世界を見事に作り上げています。
その他、歌唱指導や効果等のスタッフ、そして7音と5音の単純な組み合わせの歌詞とはいえ、歌の練習を余儀なくされた出演陣も含めて、多くの人の手がかかった労作であることを素直にたたえたいと思います。
ただ、あまりにも健全すぎる作品で、個人的にはこのような作品ばかりになるとちょっと困ってしまいます。
これはこれとして毒のある作品も欲しいなあとは思います。

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(※)
歌詞の順番の間違いをご指摘いただきました。
ありがとうございました。

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  • 2016/02/13(土) 18:10:48 |
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