青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

アグリーガール 原作:ジョイス・キャロル・オーツ(青春アドベンチャー)

作品:アグリーガール
番組:青春アドベンチャー
格付:AA
分類:少年
初出:2015年10月5日~10月16日(全10回)
原作:ジョイス・キャロル・オーツ
脚色:樋口ミユ
演出:真銅健嗣
主演:森カンナ

あたし、アーシュラ・リグスは、ニューヨーク州ウエストチェスター郡のロッキーリバー高校に通う16歳。
ある朝、目覚めた瞬間にあたしは自分が「アグリーガール」なんだって気づいた。
その時から負け組まっしぐらだったあたしの人生は変わった。
アグリーガールは媚びない。
アグリーガールは他人を頼らない。
アグリーガールは分かりやすい女らしさとは無縁だ。
そして、アグリーガールは正しいことをすることを躊躇しない。
だから、テロ予告の容疑者にされたクラスメイト、特に親しくもなかった単なる級友、のために証言することも躊躇しない。
例え彼の「親友」たちさえ「テロ予告犯とかかわり合いにならないため」に口をつぐんでいたとしても、だ。

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アメリカの女流作家ジョイス・キャロル・オーツの「アグリーガール」(Big Mouth & Ugly Girl)をラジオドラマ化した作品です。
“ugly”は通常「醜い」という意味で知られていますが、辞書を引くと「醜い」のほかにも、「不快な」、「物騒な」、「卑劣な」、「意地悪な」などなどマイナスのイメージの言葉が次々と飛び出してきます。weblioによれば「女性に対しては通例用いない」とも。
ただ、この作品における「アグリーガール」は、そういった他者からの蔑称として使われているのではなく、わかりやすい女性らしさ(=Cute)とは対極な生き方をすることを、一種、偽悪的なやり方で宣言するために用いられています。

さて、本作品は、「アグリーガール」として孤高を保つことを決心したアーシュラと、もともとはクラスの人気者でありながら冤罪で孤立し家族もズタズタにされてしまうマット(マシュー・ドナヒー)のふたりを主人公とした作品です。
原題の“Big Mouth”はマットを、“Ugly Girl”はアーシュラを示しているのだと思いますが、邦訳版及びこのラジオドラマのタイトルではアーシュラを前面に押し出した形になっています。
と書くと、周りを顧みずやたらと自己主張する「強い女」の物語のように思えるかもしれません。
たしかに作品中ではアーシュラは心の中では「アグリーガールは○○しない、アグリーガールは○○する、アグリーガールは○○だ。」とやたらと強気なことをつぶやいています。
また、公式ホームページの紹介を見ても「他人に流されない孤高の女戦士」とか「女の子っぽさを捨て、毅然とクールな人間として振る舞う」とか「自分の信念通り素直に生きる少女」といった扇情的なキャプションが並びます。
しかし、作中のアーシュラは他人や世間に無関心な冷たい人間では決してありません。
むしろ人一倍、感受性の強いアーシュラが、より正しく生きるために、唇を噛みしめて体現している人格が「アグリーガール」なのだと思います。
その強くて爽快だけど、どこか痛みも感じられるキャラクターには共感をせざるを得ません。
とはいえ、良くも悪くも何かを切り捨てて割り切っちゃった人格なので、実際に身近にいたら結構、迷惑な存在だとは思います。
その面では、存在感は決して大きくありませんが、アーシュラと気兼ねなく付き合っている友人イヴァンや、出番は少ないけど意外と理解のあるお父さんの存在はアーシュラにとって大きな救いになっているようにも感じます。
アーシュラがどこまで気づいているかわかりませんが。
なお、このアーシュラを演じているのは女優・モデルの森カンナさん。
身長が168cmあり、wikipediaによると、中学生までやっていたバスケットボールで渋谷区の大会で最優秀選手に選ばれたこともありながら、高校では生ぬるい雰囲気が嫌でバスケットボール部には入らなかった…って、随分アーシュラと被る経歴です。
演出の真銅健嗣さんがここまで知っていて森さんをキャスティングしたのであれば、なかなか行き届いたキャスティングといわざるを得ませんね。

さて、主役といえばもう一人の主役が俳優の中村倫也さん演じるマット。
前半こそアーシュラ中心の作品のように思えますが、後半はマットの比重がかなり重くなり、原題どおりダブル主演のような形になります。
中村さんは、青春アドベンチャーでは「リテイク・シックスティーン」などへの出演経験がありますが、今回は堂々の主役級。
中村さんといえば、深夜に怪しいテンションで放送されていたTVドラマ「アオイホノオ」の赤井タカミが印象的です(あの作品は出演者全員が怪演状態でしたが)。
本作品で中村さんが演じるマットについても、冒頭の明るく陽気だけどちょっと無責任な性格(「コロンバイン高校銃乱射事件」に絡めた冗談を言うのはさすがにどうかと思いますが)であったのに、中盤以降は聴いていてつらくなるほど追い込まれ、性格も暗くなっていきます。
社会からは偏見の目で見られ、陰惨なスクールカーストの犠牲となり、家族も頼りにならない(ちなみにマットの母親は唐沢潤さんが演じているのですが「精霊の守り人」でバルサを演じた唐沢さんとは思えないダメ母親っぷりが見事)状況で追い詰められる姿や、終盤の一回り成長した姿など、様々な側面を演じわけていらっしゃる姿が印象的でした。
アーシュラがあまりぶれない性格で、森カンナさんの演技があまり変わらないこともあり(でもそのアーシュラが微妙に揺れているのがこの作品の魅力でもありますが)、本作品での一番の聴きどころは中村さん演じるマットであったと思います。

本作品、学校が舞台で、特段派手な事件も起きない(テロリストに間違われるのはそれなりに大変な出来事ではありますが)割には、緊張感のある楽しい展開の作品です。
楽しみにしていた真銅健嗣さん演出作品ですが、期待どおりした。
脚色の樋口ミユさんは、後半イマイチだった「僕たちの宇宙船」、後半は無難にまとめていた「ニコイナ食堂」に次ぐ作品ですが、本作品は良質な原作を得て最後まで中だるみすることなく楽しく聞くことができました。
今後にも期待大です。





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