青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

「人喰い大熊と火縄銃の少女」の漫画化に最もふさわしい漫画家を考える

【「人喰い大熊と火縄銃の少女」の漫画化に最もふさわしい漫画家を考える】

「人喰い大熊と火縄銃の少女」は2015年7月にNHK-FMで放送されたラジオドラマです。
内容についてはこちらの記事で紹介していますが、本作品は、原作付きの作品が多い「青春アドベンチャー」は比較的珍しいオリジナル脚本のラジオドラマでした。
脚本を書かれたのは劇団テノヒラサイズを主宰されてるオカモト國ヒコさん。
ご自身のブログで以下のとおり「人喰い大熊と火縄銃の少女」を紹介されています。

(外部リンク)http://okaq215.blog.fc2.com/blog-entry-125.html

さて、このオカモトさんの文章を読んだ際に気になったのが末尾に書かれた以下の一文。

「あと誰か、絵のうまい人、これ漫画にしませんか。」

確かに本作品、オカモトさんご自身が「アクションサスペンス」、「リアル大怪獣もの」と書いているとおりアクションに力点を置いた作品であり、漫画化したら面白そうです。
そこで本記事では、このオカモトさんの一言に悪のりして、「人喰い大熊と火縄銃の少女の漫画化に相応しい漫画家さん」を考えてみたいと思います。

まずは条件の整理から。
検討に当たっての前提条件は以下の2つと考えます。

①絵の上手い漫画家
②原作付きの作品で実績がある方、または期待が出来る漫画家

①については上記のオカモトさんの一文から設定しました。
オカモトさんがいう「絵のうまいひと」は、「漫画家の中でも特に絵の上手い人」という意味ではなく、単に「漫画が描けるほど絵がうまい人」という意味かも知れませんが、大自然や熊との戦闘シーンをリアルに描けることは、作品の性格上必須であると考えます。
ところで、漫画において「何をもって絵がうまいというか」は、意外と奥深い問題だと思います。
かの手塚治虫さんは「自分は絵がうまくない」と言っていたと聞いた覚えがあります。
漫画というのは写生ではなく一種の「記号化」であると考えれば、手塚治虫さんは記号化には卓越していたとしても、確かに美術的な意味での絵のうまさとは違うのかも知れません。
本作品においてどちらのうまさを目指すべきかというと、まずリアルな自然描写等の必要性から記号化された絵柄(敢えて言えばアニメっぽい絵柄)の漫画家さんは、漫画技術がとても高い方であったとしても相応しくなさそうです(例えば高橋留美子さんとか)。
少なくとも本当に怖い熊と、本当に寒そうな冬山が描けなければなりません。
一方、「人食い大熊」と「火縄銃の少女」という一種、浮き世離れした幻想的なイメージが売りの作品でもあり、ファンタジックな雰囲気作りも大切です。
特に写実的に描写すると相当に汚いであろうヒロイン・凛(りん)を、かわいく描くことも必須であるように感じます。  
その結果、あくまで個人的にですが、写実一辺倒ではなく、ある程度記号化された漫画チックな絵も必要と考えました。

そこで、まず絵のうまい漫画家という観点から考えてみます。
現在、「絵のうまい漫画家」として名前が挙がる方といえば、まずは井上雄彦さんでしょうか。
井上さんの代表作は「スラムダンク」と「バガボンド」、「リアル」といったところ。
「スラムダンク」は湘北高校のスターターが揃った最終31巻を、「バガボンド」はポートレートが多いバガボンドの表紙の中では数少ない背景が入った34巻をチョイスしてみました。




井上さんの作品はとてもリアルですが、同時にどこからみても漫画にしか見えないのも特徴だと思います。
これは井上さんが作中で、現実とは違う漫画ならでは記号的な表現も巧みに取り込まれていることに加え、井上さんの絵のリアルさというものが、現実そのままの写真のリアルさではなく、現実を一旦咀嚼して井上さんの脳で画像処理したうえではき出されたリアルさであるからのように感じます。
「人喰い大熊~」の作画という観点から見ても、井上さんが描いた熊を見た覚えがないのが残念ではありますが、終始汚い格好をしている主人公・武蔵を「美しく」描いていることや、自然描写・バトル描写の見事さなどを見れば十分以上に相応しい描き手であることは確かだと思います。
「おつうさん」もキュートですしね。
という訳で絵の方は問題ないとして、井上さんを推す際の懸念点を挙げるとすれば、この記事の最初に描いたもう一つ(②)の条件である「原作付きの作品で実績があるか」という点。
漫画家さんには「原作付きの作品を得意にされる方」というのが確実にいらっしゃいます。
「話しと絵の両方が出来て一人前」という考え方もあろうかと思いますが、実は原作付きの作品を原作以上の漫画に仕立てることは、絵と話しの両方が出来るのとは、また違った才能が必要とされることだと思います。
井上さんは、デビュー作の「カメレオンジェイル」が原作付きでしたが、正直パッとしない作品でした。
「バガボンド」も一応、吉川英治さんの「宮本武蔵」が原作になっていますが、設定が一部大きく改変されており、別作品と言っても良いできです。
「原作の漫画化」という点では、井上作品はスケールが大きすぎといえそうです。
まあ現実問題としては、井上さんは売れっ子すぎてやってくれそうにない、というのが最大の難関でしょうが。

井上さんと同様に、「原作付きの作品を得意にされる方」という条件で少し疑問を感じるのは、「人喰い大熊~」の正記事でも紹介した矢口高雄さんです。
矢口さんの代表作といえばやはり「釣りキチ三平」。
ここでは矢口さん得意の渓流が描かれた「作者自選傑作選2」を選びました。
またもうひとつは「釣りキチ三平」にも登場した「阿仁の三四郎」が主人公の「マタギ列伝」。




人物は「いかにも漫画」という感じの絵ですが、「釣りキチ三平」を始め、東北(秋田)の山里を舞台にした作品が多い漫画家さんですので、自然描写はばっちりです。
さらには、「マタギ列伝」などずばり熊撃ちをテーマにした作品も描かれていますし、それどころか、「三毛別羆事件」をテーマにした「野生伝説」という熊害の作品を、戸川幸夫さんの原作付きで描かれてもいるようです。
正直、もう矢口さんでいいんじゃないか、という気もします。
ゆりっぺもかわいいし。
しかし、個人的な感想ですが、矢口さんもどちらかといえばオリジナルのキャラクターを動かすのが得意な漫画家さんだと思います(自分の作品の中では似たようなキャラクター・シチュエーションを使い回しことは多いですが)。
子ども時代、あるいは社会人になってからの矢口さんの分身のような、生き生きとした魅力的なキャラクターこそが矢口作品の醍醐味だと思います。
それに何より、矢口さんはもう半分引退状態に近い方。
いつまでもベテランに頼っているのもどうかと思いますしネ。

そう、やはりここは今が旬な作家さんで行きたいところです。
自然描写が得意で、アクションもうまく描けて、漫画チックな表現もできる…
そうだ、幸村誠さんがいるじゃないですか。
幸村さんの代表作と言えば「プラネテス」と「ヴィンランド・サガ」。
というか連載作品はこの2作品しかありません。
しかし、初連載作の「プラネテス」の時点ですでに絵柄が確立されており、その後まさすます迫力を増しています。
ここでは「プラネテス」は衛星軌道上を描いた1巻を、「ヴィンランド・サガ」は敢えて主人公が出ていない吹雪の4巻の拍子をチョイス。




最新作「ヴィンランド・サガ」は中世の北欧・イギリスを舞台にしたヴァイキングの物語です。
あくまで漫画らしいタッチで、少年漫画らしい(途中から連載が青年誌に移行しましたが)誇張されたアクションシーンも痛快です。
しかも、要所要所では確かな画力を感じますし、冬山と北欧の違いはあれ、寒そうな景色は書き慣れています。
そういえば「ヴィンランド・サガ」最新刊では、ついに「熊」も登場しました!
何よりも他の人が扱わない難しい舞台で、巧みなストーリーを展開する漫画力には脱帽です。
「本当の戦士」とは何か。
主人公トルフィンの今後の選択に目が離せません…って、この記事は「ヴィンランド・サガ」の紹介ではありませんでしたね。
ただ、幸村さんも絵とストーリーを両方とも描かれてこその漫画家さんだと思います。
今まで発表した作品が少ないこともあり、原作付き漫画という点では、未知数と言わざるを得ません。

さあ、では逆に「原作付きの作品が得意」という観点から候補を考えてみましょう。
ここでまずご紹介すべきは谷口ジローさんでしょう。
オリジナルの作品も味わい深いのですが、原作者と組んで良い仕事をすることで有名な漫画家さんです。
夢枕獏さんの原作小説を漫画化した「神々の山嶺」は、漫画の一つの到達点だと思います。
他にも、海外でも評価の高い細密な絵で、「孤独のグルメ」、「坊ちゃんの時代」などを原作者の力量以上の作品に仕上げていると感じます。
画像は冬山の景色が美しい「神々の山嶺」1巻と、下町の飲食店街が楽しげな「孤独のグルメ」の表紙。
(追記:2017年2月11日に谷口ジローさんはな亡くなられたそうです。合掌。)




そう、絵が非常に上手いのも谷口さんの特徴。
「神々の山嶺」での執拗に書き込まれた冬山の絵を見れば、谷口さんが「人喰い大熊~」の自然描写を軽々こなす力を持つことを疑う余地はありません。
しかし大きな問題があります。
それは谷口さんの描く凛がかわいいかということ。
写実指向で淡々とした谷口さんの絵は、ドラマチックでファンタジックなアクション作品にはあまり合わないと思います。
残念。

さて、ここまでクダクダと描いてきましたが、「では結局、二つの条件を満たす漫画家さんに心当たりはないのか」という声が聞こえてきそうです。
実はあります。
それは……伊藤悠さんです。
代表作は「皇国の守護者」と「シュトヘル」。
初連載作が「皇国の守護者」で佐藤大輔さんの小説を原作とする作品でした。
その後、現在はオリジナルストーリーの「シュトヘル」を連載中で、これはこれで良いのですが、この企画において注目すべきはやはり「皇国の守護者」の方。
この漫画版「皇国の守護者」、一言で言うと「原作以上」という評価が相応しい作品と感じました。
世評でもそのようにされているようです。
画像は、敢えて迫力ある剣牙虎が描かれた巻を外して主人公・新城直衛の部下たちを描いた「皇国の守護者」3巻と、汚い女の子(?)を拍子に持ってきた「シュトヘル」5巻。




登場人物の性格に沿った細かいオリジナルエピソードの追加、原作の名場面を、原作を超える迫力で再現する画力。
原作をぶちこわさない範囲で適度に原作から離れたストーリーをつくる絶妙の距離感。
伊藤さんの原作付漫画力には脱帽です。
残念ながら何らかの(?)事情があったらしく漫画版「皇国の守護者」は途中で打ち切られているのですが、実は原作も終盤はグダグダになるので、これはこれで良かったのかも知れません。
でもせめてもう少し続いて欲しかったなあ。
絵の面でも、漫画チックでありながら適度に荒れた線が、極寒の戦場にマッチしており、「人食い大熊と火縄銃の少女」の冬山にも合いそうです。
幼少期の蓮乃やウィソといった少女達も、汚い身なりながら可憐で、伊藤さんの描く凛にも期待が持てます。
作品中に熊は出てきていないと思いますが、剣牙虎(サーベルタイガー)を迫力満点で描いており、こちらもばっちり。
そう、「人喰い熊と火縄銃の少女」は伊藤悠さん作画で行きましょう!

以上、勝手ながら推薦させて頂きます。
長文にお付き合い頂きありがとうございました。
まあ「シュトヘル」が終わるまでは無理でしょうけど。

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