青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

赤と黒(第一部) 原作:スタンダール(青春アドベンチャー)

作品:赤と黒(第一部)
番組:青春アドベンチャー
格付:AAA-
分類:恋愛
初出:2004年2月9日~2月27日(全15回)
原作:スタンダール
脚色:横山玲子
演出:真銅健嗣

フランス革命から40年。
王政復古によりフランスはまた階級社会に逆戻りしていた。
貧しい材木屋の息子ジュリアン・ソレルは、明晰な頭脳と美しい顔、そして金持ちに対する激しい敵愾心を持つ青年であった。
そんな彼の憧れの存在はナポレオン。
しかし、ナポレオン時代のように軍人として世に出ることはできないと悟った彼は、教会での立身出世を夢見て学問にはげむ。
そして、その地方随一の俊英と呼ばれるまでになり、有力者である地方貴族レナール氏の子供たちの家庭教師となるのだが、そこでレナール氏の若き奥方に出会ってしまうのだった。

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本ブログで紹介している青春アドベンチャーは、いまやNHK-FMでは唯一の連続ラジオドラマの番組です。
突然ですが、NHKのテレビで連続ドラマの放送枠がひとつしかなかった場合を想像してみてください。
ひとつしかないのですから、当然すべてのジャンルのドラマがその番組で放送されることになります。
例えば、「あまちゃん」が終わった次の番組が「軍師官兵衛」で、さらにその次が「冬のソナタ」で、さらにその後番組が「ハゲタカ」とか「氷壁」とか「ログ・ホライズン」だったりするわけです。
当然、視聴者は混乱するでしょうが、現在の青春アドベンチャーはこれに近い状況にあります。
一応、「青春」と「アドベンチャー」という二つの縛りはあるのですが、題材に振れ幅が非常に大きいのです。
本作品「赤と黒」は、スタンダールという誰もが知る大家による古典を原作としていること、男女の恋愛のもつれが執拗に描かれていること、の2点において青春アドベンチャーでも極北に位置する作品です。

さて、本作品の原作「赤と黒」は世界文学史に残る名作として知られています。
そして、文学史的には当時のフランスの支配階級の堕落を痛烈に批判したリアリズム小説の原典との評価があるようですが、そういった歴史的な位置づけは別にして、単に作品単体として楽しむならば、立身出世をもくろむ青年の恋と野望の物語といってしまってよいと思います。
といっても、高橋和也さんが演じる主人公のジュリアンは、野心家ではありますが、本作品をピカレスクロマンと規定しなければならないほどの悪漢では全くありません。
確かに、彼は敬愛する恩師にすら本心を隠して、立身出世のために聖職者になりますし、人妻であるレナール夫人ルイーズを誘惑します。
また、ルイーズが少しでも身を引こうとするや否や、自分の自尊心を満たすためだけに彼女を再度誘惑するなど、基本的にとても自己中心的です。
しかし、金持ちに対して、ちょっと突っ張って偉そうな物言いをするたびに「俺はまた勝利したぞ!」と心の中で宣言するような小心な青年であり、そもそも、金持ちに対する嫌がらせのためにルイーズを誘惑しておきながら、すっかり自分自身も恋に落ちてしまうあたり、根は相当に善良といわざるを得ません。
結局、連続15日にも亘って、レナール邸という狭い舞台で、ジュリアン自身も制御できないドロドロの恋愛ドラマが放送されることになるわけです。
ちなみに全15回の各回のサブタイトルは以下のとおりです。

第1回 革命の後に
第2回 出逢い
第3回 恋の芽生え
第4回 別荘
第5回 肖像画
第6回 恋の作戦
第7回 結ばれて
第8回 罪と罰
第9回 匿名の手紙
第10回 町の噂
第11回 別れ
第12回 愛のしるし
第13回 神学校
第14回 レナール夫人
第15回 パリへ

これで15回ももつのかな、と思われるかも知れませんが、さすが古典というべきか、これが意外と飽きない作品です。
その理由を、同じ高橋和也さんが主演した「ベルリンの秋」と対比して考えてみます。
どちらも歴史的な大事件を背景にしたドロドロ恋愛ドラマという面で共通しています。
しかし、「ベルリンの秋」の主人公・亮介が、歴史の転換に対してあくまで傍観者であるのに対して、ジュリアンは自ら階級社会を変えるべく苦闘しています。
つまり本作品「赤と黒」の方が、歴史的な背景と主人公の人物造形とがより直結しており、その点から生じる切迫度合が恋愛をよりシリアスにしています。
また、状況に流されるだけだった「ベルリンの秋」の亮介と違って、本作品のジュリアンは事態を積極的に動かそうとしているのが、作品展開を先の見えないものにして、興味を惹かれる結果に繋がっていると感じます。
まあ、結局、恋愛関係をぐちゃぐちゃにしちゃうのは両人とも同じなのですけど。

こういったストーリーの面以外にも、本作品には作劇上の工夫も感じます。
本作品の状況説明は基本的には第3者のナレーションではなく、ジュリアンのモノローグでなされるのですが、実は原作者の「スタンダール」役(=語り)で俳優の橋爪功さんが配されています。
橋爪さんは各回の本編の冒頭と最後を中心に要所要所しか出番はないのですが、一歩引いた視点から作品展開に感想を入れたり、恋愛に関する警句を言ったり、時にはジュリアンの行動に突っ込みを入れたりして、なかなか良いアクセントになっています。
橋爪さんといえば「魔術師」の悪役も印象的ですが、こういった曲者的な配役はよく会っていますね。
本作品の脚色は横山玲子さんですが、ナレーションに頼らないスムースな場面展開といい、19世紀という制作年代の古さや翻訳ものであるということを感じさせないセリフ回しといい、なかなかの脚色です。
なお、橋爪さんはあくまで作品本編の「語り」であり、作品全体のタイトルコールや出演者紹介は別の女性が担当されています...っていうか、この声、NHKのアナウンサーだった広瀬修子さんじゃないですか!
広瀬さんの名前は一切コールされないのですが、間違いないでしょう。
広瀬さんといえば全編でナレーションを担当されたアドベンチャーロード時代の名作「暗殺のソロ」が思い出されますが、本作品も広瀬さんの声だけで相当締まった作品になったと感じます。
調べてみると広瀬さんは2004年いっぱいをもってNHKを退職されているとのことなので、この作品はギリギリNHKに在籍していた時代の作品ということなります。
退職も間際の時期に敢えて広瀬さんを起用するなど、さすが本作品の演出の真銅健嗣さんはよくわかっていらっしゃいます。

さて、本作品の主演は上記のとおり元男闘呼組の高橋和也さん。
家守綺譚」、「プラハの春」、「ラジオ・キラー」など高橋さん出演作品には外れがありませんね。
そしてヒロインのレナール夫人役は女優の麻生祐未さん。
全般にとにかく艶めかしい演技の連発で、このドロドロのドラマを盛り上げています。
高橋さんや橋爪さんと違った意味で忘れられない演技であり、麻生祐未さんもまたこの作品では欠かすことのできない配役だと思います。

さて、本作品は、タイトルに「第一部」と入っているとおり、この15回だけでは完結しません。
物語はこの4か月半後に放送された後半「赤と黒(第二部)」へと続くのです。



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