青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

砂漠の王子とタンムズの樹 原作:足立明(青春アドベンチャー)

作品:砂漠の王子とタンムズの樹
番組:青春アドベンチャー
格付:AAA
分類:異世界
初出:2014年9月29日~10月10日(全10回)
原作:足立明
脚色:オカモト國ヒコ
演出:吉田努
主演:冠野智美

貧しい砂漠の王国の王子、グー・タイニャス。
この赤い瞳を持つ心優しい王子は、王位継承権を得るための「試しの儀」に臨むにあたり、心中に、ある決意を抱いていた。
その決意とは、自分が王になった暁には、理解できない理由で追放された前王妃 -グーの実母- を探すこと。
だが、強い決意を持って臨んだはずの「試しの儀」は冷酷な決断を要求する過酷なものだった。
国を守るために残酷な決定を平然と下すことを要求する周囲の人間たちに、強い反発と嫌悪感を覚えるグー。
しかし一方で、彼はこの国にそうせねばならないを過酷な現実があることも知る。
それでも彼は現実を無批判に受け入れることを拒否する。
この国は間違っている、このままでよいのか、と。

―――――――――――――――――――

本作品「砂漠の王子とタンムズの樹」は脚本家・足立明さんの手による小説を原作とするラジオドラマです。
足立さんは、「早く人間になりた~い」で有名な1960年代の名作アニメ「妖怪人間ベム」など、多くのテレビアニメの脚本を担当された方でした。
こちらのホームページ(外部リンク)によれば、この小説「砂漠の王子とタンムズの樹」は、現在、完全な形で読める足立さんの唯一のオリジナル作品なのだそうです。
さらにいうと、この原作はなんと1960年代に書かれた原稿が、足立さんが亡くなられた後の2012年に遺族により発見され、2013年に単行本化されたものだそうです。
そう、この原作は今から半世紀も前に書かれたものなのです。
今日の異世界ファンタジーの隆盛など想像もできなかった時代に、これだけ完成された作品が書かれていたという事実。
そしてそれが全く時代遅れになっていないという事実。
何という才能、そして何という数奇な運命の作品なのでしょうか。
幼いころに異様な迫力のある「妖怪人間ベム」(再放送)に圧倒された者としては、数十年後に、ラジオドラマという形で、この作品に出合ったことをとても不思議に感じます。

さて、この作品の内容についてですが、冒頭の作品紹介以上のことを書くと、折角の緊張感のある展開が台無しになってしまうのでこれ以上のストーリー紹介は避けたいと思います。
そのため抽象的な紹介になってしまうのですが、本作品の原作は、どちらかというと児童文学またはライトノベル(もちろん執筆された1960年代にはライトノベルなんてジャンルはありませんでしたが)に分類されており、子供向けに書かれた作品にみえます。
強いメッセージ性からは児童文学っぽい匂いも確かにするのですが、一方で、折々にかなり残酷な描写もあります。
また、主人公のグー王子は、ままならない現実をオブラートに包まず突きつけられ、しかもそれに逃げずに敢然と立ち向かっていきます。
この逃げたり流されたりせずにあがき続ける様子が、現在のライトノベルというよりは昭和のアニメっぽい印象を感じさせます。
「だから昭和のアニメで育った大人たちに受けそう」だ、とまでは言ったら言い過ぎかもしれません。
しかし、善悪二元論に逃げない含蓄のあるストーリーが、どちらかというと、現実の日々の中で、矛盾するいくつもの難題に何とか整合性を取りながら生きている大人にこそ評価されるもののような気もします。
個人的には、この作品を聴いているのと同じ時期に上橋菜穂子さんの小説「天と地の守り人」を読んでいたので、両作がシンクロしてしまい、相乗効果?からか妙に盛り上がってしまいました。
そういえば、主人公と母親である王妃とのつながりが物語の発端であること(でも両作の主人公ともマザコン的な弱さは感じない)、終盤で吹雪の山を踏み分けて北の国に向かうことなど妙にシンクロする要素がありますね。
もちろん冒頭に書いたこの作品の公表経緯をみればどちらかが参考とした訳ではないことは明らかですが。
また、類似作という点では宮崎駿さん原作の「シュナの旅」との比較も面白いです。
主人公が王子であること、その主人公が運命を受け入れることを否定して旅に出ること、世界の謎に人間の〇〇が絡んでいることなどに類似点がありますが、原作者の人間観を反映してか、作品の雰囲気はかなり違います。
もちろん、本作発表の経緯を考えればどちらがどちらをまねしたというのではないことは明か。
安心して比較を楽しんでください。

さて、いずれにせよ、ストーリーのご紹介はここまで。
あとは是非、ご自身でご確認ください。
終盤ちょっと駆け足になってしまうのが残念ですが、同じ子ども向けの文芸作品でも、ふんわりとした展開に終始した「二分間の冒険」などとはかなり雰囲気が違います。

なお、原作の良さもあると思うのですが、ラジオドラマとしても、「僕たちの戦争」や「泥の子と狭い家の物語」などいつも安心して聴けるオカモト國ヒコさんの脚色と、「リテイク・シックスティーン」や「旅猫リポート」など最近(個人的な)ヒット率の高い吉田努さんの演出を得てなかなか緊張感のある良い作品になっています。

さて、ネタバレしないようにすると書き方が慎重にならざるをえないのですが、最後になぜか文化人類学の書籍を紹介したいと思います。
本作品の舞台となる砂漠の王国は「タンムズの樹」なる植物にその生活の多くを依存しています。
この「タンムズの樹」は現代社会の何か(恐らく科学文明のある側面全体)を寓意的に表す象徴なのかも知れませんが、現実の地球にも、ある植物に全面的に依存した社会が成立している地域があることはご存知でしょうか。
私も最近たまたま読んだのですが、「人間にとってスイカとは何か: カラハリ狩猟民と考える」によれば、雨も降らず川もなく井戸もないアフリカ南部の砂漠地帯では、何とスイカを食料としてのみならず、井戸代わりの水源にし、しかもスイカを利用して家畜まで養うなど、社会をスイカ中心に組み立て生きている人々がいるのだそうです。
いわく「スイカがあれば人は生きていける」とか。なんだか凄いです。
本作品の「タンムズの樹」も荒唐無稽な設定といえばその通りですが、現実の自然の不思議さ、そして人間の柔軟さというものを考えると意外とリアリティのある話なのかも知れません。

話を出演者に移しますと、本作品の主役であるグー王子を演じるのは、冠野智美さん(36歳)です。
青春アドベンチャーでは、過去に「ファンタジー風哲学学習作品」という新しいジャンル(?)を切り開いた怪作「哲ねこ七つの冒険」で猫のプルルを演じていました。
本作品では少年の声を大人の女性が当てているわけで、聴いていると専業の声優さんなのかなとも感じました。
しかし、確かにアニメ「ベン10」の主役を演じているものの、基本的には舞台や実写吹き替えで主に活躍されている方のようです。
一方、ヒロインのスニカを演じているのは、声優の大谷美貴さん。
スニカは多分、十分な礼儀作法も知るべくもない貧しい普通の少女という設定です。
そのためグー王子に対して一生懸命に使っている敬語が、王子に対するものとしては微妙に丁寧ではないのですが、その丁寧すぎない敬語が心地いいと感じられる、爽やかなキャラクターです、
また、往年の大物声優である小山茉美さんがナレーションをされています(機動戦士ガンダムのキシリア・ザビ役についてはこちら)。
小山さんのナレーションは「報道ステーション」や「報道特集」で聞きなれているからか、とても落ち着いた感じを受けます。
青春アドベンチャーでは声優としては故塩沢兼人さんと共演された「オルガニスト」が印象的です。
また、同じようにナレーションとして参加された「スピリット・リング」もなかなか楽しい作品でした。
もう超ベテランなので、あまり積極的に声優業はされていないのかも知れませんが、是非、また「役」でお声を聴きたいですね。





【2014/9/30追記】
本作品を脚色したオカモト國ヒコさんのブログで、この作品に関する記事を見つけました。
オババ様役の京田尚子さんなどについて熱く語っていらっしゃっており必見です。

(外部リンク)http://okaq215.blog.fc2.com/blog-entry-118.html

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