青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

夏への扉 原作:ロバート・A・ハインライン(青春アドベンチャー)

作品:夏への扉
番組:青春アドベンチャー
格付:AA+
分類:タイム・スリップ
初出:1995年8月28日~9月8日(10回)
原作:ロバート・A・ハインライン
脚色:福田卓郎
演出:岩谷可奈子

その頃、僕、ロボット技師で発明家のダニエル・ブーン・デイビス(ダン)は幸福の絶頂にいたんだ。
僕が開発した家事用ロボット“ハイアードガール”は世間の絶賛を浴び、親友マイルズと恋人のベルとの3人で切り盛りしている会社も順調。
“ハイアードガール”を大きく上回る性能をもつ新発明“フレキシブル・フランク”の開発も進んでいるし、ベルとは結婚の約束も取り付けた。
気になることと言えば、愛猫のピートや、マイルズの義理の娘でぼくとは仲良しのリッキーが、ベルに一向に懐かないこと。
そして、マイルズがしきりに会社を大きくしたがっていることくらい。
世間では新しく発明された冷凍睡眠(コールドスリープ)で未来に行くことを希望する人もいるようだが、僕には関係なかった。
だって仕事は忙しいし、プライベートも幸福だ。
今のままで十分じゃないか。
でも、僕の周りの人々は僕と同じようには考えていなかったんだ...

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SF界の大家・ロバート・A・ハインラインのSF小説を原作とするラジオドラマです。
このブログでは「タイム・スリップ系」という分類ジャンルを設けているため、本作品は「SF系」ではなく、そこに分類しましたが、実は本作品で扱われているテーマは、どちらかというと「タイムスリップ」というより「タイムトラベル」です。

原作小説「夏への扉」はロマンチックなSF作品として、日本でも大変人気のある作品なので、ストーリーをご存知の方も多いと思います。
もちろん、私も事前に原作を読んだことがあり、結末も知っていました。
タイムスリップ(偶発事故のイメージ)やタイムトラベル(意図的な時間旅行のイメージ)をテーマにした作品は、時間移動の過程で示される様々な伏線が、いかに回収されていくかが見所の一つで、その点で推理小説に近い面があります。
その結果として、既にストーリーを知っている状況でこのラジオドラマを聴くという体験は、どうしても初めて読んだ時の新鮮な感動には及ばないことが否定できません。
そのため、作品自体の格付けは“AAA”でも十分良いと思うのですが、私がラジオドラマを視聴した環境も含めた感想としては、少しだけ落ちる“AA+”とせざるを得ませんでした。
この辺の状況は「アルジャーノンに花束を」と似ており、両作とも今から新鮮な気持ちで読む(聴く)ことができる方が羨ましいです。
とはいえ、改めて聴いても、不確かな時間旅行と冷凍睡眠を使った巧みなストーリー展開はさすがで、とても良くできている作品だと感じました。
ラジオドラマとしてみても、本作品では、声だけでは表現が難しい部分(「文化女中器」とか「護民官ペトロニウス」など)は適当に省略しています。
また、青春アドベンチャーの枠の都合(15分×10回)もあり全般的に駆け足で、特に最後のピートと“夏への扉”のくだりは唐突な印象もありますが、基本的には原作に忠実で不快感のない出来です(逆に言えばラジオドラマとしての特長を生かして原作以上の出来になったとも言いがたい)。
特に、原作もそうだったのですが、終盤は相当、駆け足の展開で、正直言って、上記のロマンチックな部分についても「そんなに急いで決めちゃって良いの?」とも感じられます。
しかし、全般的に無駄を省いて綺麗にまとまった作品だと思います。

ちなみに、このロマンチックな部分でふと思いついたのは、青春アドベンチャー化もされた田中芳樹さんの「夏の魔術」です。
両作をご存知の方であれば両作の恋愛関係に微妙に似た関係があることはおわかりかと思います(奥歯に物が挟まったよう書き方で申し訳ありません。一応、ネタバレしないように書いているつもりです)。
もちろん作品内容は全く違いますが、ひょっとして「夏の魔術」のタイトルを付けるに当たって、田中芳樹さんは本作品のことをイメージしていたのではないかと考えてしまいました。
もちろん根拠は何もないのですけど。

ところで、本作品、ロマンチックな内容やネコのかわいさから、ほのぼのとした印象をもたれる方もいらっしゃるかも知れません。
しかし、改めて考えると、ダン自らが手を下すことはないものの、結構シリアスな復讐劇とみることもできます。
それでも後味が悪い作品でないのは、ダンが作中でも言っているとおり「結局、人を信頼しないと何も出来ない」という考え方が作品の根底にあるからだと思います。
作中では3人の弁護士が登場します。
ひとりはダンの親友だったマイルズ、もうひとりはダンが裏切りにあった際に相談に行った弁護士、そして最後はもうひとつの時間軸でダンが親友になるジョン。
最初の2者は強欲・無関心を象徴するようなキャラクターでしたが、3番目のジョンは誠実を象徴するようなキャラクターです。
とかく批判の対象になりがちな米国の弁護士を題材にとって、結局は人を信じざるを得ないことを描いているように感じました。

なお、本作品は1995年8月に放送されています。
実は原作は1956年に発表された作品で、作中の舞台は1970年と2000年。
その後、時間が経過して、本ラジオドラマの放送時期は、作中における未来(2000年)に近い時期になってしまっていました。
そのためかラジオドラマ化にあたって舞台を2010年と2040年という、ラジオドラマの放送時期からみた近未来に設定し直すという、なかなか細かい配慮がなされています。
それでもこの記事を書いている時点(2013年)で考えると、更に時間は流れて、既に2010年ですら過去になってしまっているのですが。
また、放送時期と言えば「夏への扉」を実際の夏の終わりに放送するというセンスはなかなかですよね。
青春アドベンチャーでは、「蒲生邸事件」の最終回を2月26日に放送したり、「少年H」を8月15日を挟むスケジュールで放送したり、意外と凝った放送スケジュールにすることがあります。


さて、本作品の出演者について書きますと、主人公のダン役とナレーションを声優・俳優の古川登志夫さんが演じていらっしゃいます。
「うる星やつら」の諸星あたる役や「ドラゴンボール」のマジュニア(ピッコロ)役で有名なベテランの人気声優さんです。
また、マイルズ役の佐戸井けん太さんは元夢の遊眠社の、ベル役の那須佐代子さんは劇団青年座の俳優さんで、安心の演技です。
また、リッキー役の高橋理恵子さんも演劇集団円に所属する女優さんで、「なくしたものたちの国」(2011年放送)や「世界の終わりの魔法使い」(2013年放送)にもご出演されていました。
その他、脇役として田中信夫さんや西村淳二さん(妖精作戦)などのベテランが固めており、安心して聴くことが出来ます。
田中信夫さんといえば洋画の吹き替え等で大活躍された往年の名声優ですが、私としてはやはり水曜スペシャル「川口浩探検隊シリーズ」のナレーションに言及せずにはいられない!
このシリーズにおかげで今でも田中さんのお声を聴くだけでドキドキせずにはいられないのです。


スタッフは、脚色は福田卓郎さんで、演出が岩谷可奈子さんです。
福田さんは映画やテレビの脚本でも活躍されている方です。
青春アドベンチャーでは、「平成トムソーヤー」や「放課後はミステリーとともに」などの国内原作作品も担当されていますが、海外原作作品の脚色も多く、特に「アドリア海の復讐」、「三銃士」、「ロスト・ワールド」などの多くの古典を担当されています。
その他、「エドモンたちの島」ではオリジナル脚本も担当されています。
福田さん脚色の海外原作作品としては、スリリングな展開の「着陸拒否」が必聴です。
なお、「ロスト・ワールド」は本作品と同じ福田・岩谷コンビの作品であり、ナレーションも本作品と同じ古川登志夫さんでした。





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