青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

小惑星2162DSの謎 原作:林譲治(青春アドベンチャー)

作品:小惑星2162DSの謎
番組:青春アドベンチャー
格付:AA+
分類:SF(宇宙)
初出:2014年5月26日~5月30日(全5回)
原作:林譲治
脚色:小林雄次
音楽:山本清香
演出:藤井靖
主演:多田直人

冥王星よりも遠い太陽系外縁部、カイパーベルトと呼ばれる小惑星地帯。
資源探索を目的とした宇宙船トーチウッド号で眠っていた家弓(いえゆみ)トワは、船の人工知能アイリーンによって目覚めさせられた。
アイリーンによれば、下級の機械頭脳ワトソンが小惑星2162DSに何らかの異常を発見したという。
早速、その原因を探るために小惑星2162DSに船を向けたトワだが、そこには予想もできない出来事が待っていた。

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林譲治さん原作の児童向けのハードSF小説を原作とするラジオドラマです。
「児童向け」でありながら「ハードSF」というは一見矛盾する表現です。
しかし、林さんはガンダムのノベライズや架空戦記といった比較的「柔らかい」分野の書き手でありながら、ハードSFも書いていらっしゃる方だそうですので、そういう意味では林さんらしい作品なのかも知れません。
この原作小説は「21世紀空想科学小説」シリーズの1冊として刊行されています。
このシリーズは、退潮著しい日本のSF小説界に一石を投じるため...かどうかは定かではありませんが、日本SF作家クラブと岩崎書店のコラボによって、新作の子ども向けSFを提供することを目的として創刊されたシリーズなのだそうです。
本作品中にも「リスクを恐れていては人類に進歩はない」という台詞があるのですが、そういう精神を体験できるのもSF小説の良さだと思います。
だからこういう作品が発表されているのも意味のあることだと思います。
個人的にも「児童向け」というだけで敬遠している部分もありましたが、本作品のような作品を聴くと先入観を持って作品を聴いてはいかんなあと思います。

さて、本作品は、コールドスリープ、カイパーベルトでの資源探査、生物の起源、小惑星の成り立ち、マイクロブラックホールなどの、ガチガチのSF要素が満載の作品です。
しかし、基本的には一種の災害?パニックものであり、スピーディーで派手な展開が続くため、気軽に楽しめる作品でもあります。
個人的な意見ですが、地の文で科学的根拠を説明できる小説や、状況を映像で示すことのできる映画やアニメと比較して、ラジオドラマでSF要素をうまく盛り込むのはなかなか難しいと考えています。
そのため、SF作品が比較的多い青春アドベンチャー系列の番組であっても、SF要素を比較的うまく盛り込めているのは「エデン2185」や「太陽の簒奪者」、「渇きの海」などごく少数にとどまります。
多くの作品は科学的な説明部分を意図的に端折ってしまうか、説明しようとしているのだけどうまく伝わらないことが多いの実情かと思います。
そのため、ラジオドラマとしての出来はともかく、ことSF要素をうまく表現できているかという面に限れば、「イカロスの誕生日」、「猫のゆりかご」、「時間泥棒」、「昔、火星のあった場所」、「僕たちの宇宙船」など死屍累々の状況です。
その中で、本作品はわずか5回という小品でありながら、SF要素をきちんと盛り込んでいるという点で希有な作品です。

本作品でSF要素をうまく取り込めている原因のひとつは、例えの巧みさだと思います。
一例を挙げるならば、小惑星2162DSに到着直後アイリーンは、小惑星2162DSの内部では、 「多孔質の岩石の間を塩分を踏んだ水が流れている」と推測します。
この推測を聞いたトワはすかさず「この小惑星全体が海水を含んだ軽石みたいなものってことか」と返します。
これによりリスナーは軽石を頭に想像しながら聞くことができます。
特に序盤はこのような会話の積み重ねを中心に、ナレーションが補足しつつなかなかうまく状況を説明していきます。
そのため、映像のないラジオドラマでありながらリスナーはSF要素を映像的にとらえることができます。
また、状況説明をナレーションに頼っていないことは、展開をスピーディーにするという副産物も生んでいます。
原作を読んでいないので、これが原作者の功績なのか脚本家の功績なのかよくわかりませんが、恐らく良質な原作とラジオドラマにフィットした脚本の相乗効果なのでしょう。
とはいえ、後半で出てくる「ホーキング輻射」までいくとさすがに比喩では説明しきれなかったのかナレーションで説明していますし、物語が激しく動く終盤では科学的な根拠を説明するのに一杯一杯になっている感は受けました。
ほとんど余韻のない終り方といい、もう0.5回分くらいでも余裕があれば、もっと余韻のあるエピローグになったのではないかという思いも残ります。
しかし、、本作品の良さは全5話にギュッと凝縮されていることでもあると思いますので、やむを得ないところでもあるのでしょう。
本作品、とにかく全5話ですのであっという間に終わってしまいます。
青春アドベンチャーの全5話ものには食い足りない作品が多いのですが、本作品や「バスパニック」を聴いていると、ひとつの「事件」を描くために突っ走っるような作品は全5話ものに向いていると感じます。

さて、本作品の出演者は、まず主役の家弓トワ役を、「海に降る」や「星を掘れ!」での好演も記憶に新しい、演劇集団キャラメルボックス所属の多田直人さんが演じています。
また、相方の人工知能アイリーン役を女優の秋山エリサさんが演じています。
本作品はこのおふたりの会話の比重がとても重く、他の方々とは明確に台詞の量が違います。
このお二人に、実は相当賢かったワトソン役の森下亮さんと、抑え気味であるのが好印象のナレーションの大滝寛さんの4人でほとんどのドラマは進行します。
この登場人物を絞った構成も全5話ものにあっていると思います。

また、スタッフは、「これは王国のかぎ」のようなファンタジックな作品や、「ピエタ」のようなリリカルな作品、「フランケンシュタイン」のようなシリアスな作品まで何でもござれの藤井靖さん。
2014年時点の青春アドベンチャーで最も多くの作品を担当しており、今、脂がのっている印象を受けます。
一方、脚色は青春アドベンチャーでは「ツングース特命隊」に次いで2作品目の担当の小林雄次さん。
「ツングース特命隊」は後半のトンでも展開でやや混乱している感がありましたが、本作品は締まったストーリーになっていると思います。

本作品、終盤のバタバタは若干残念ではありますが、青春アドベンチャーでハードSFをやろうという試みはとても応援したくなるものです。
以前、青春アドベンチャー化してほしい作品として小川一水さんの作品を取り上げたことがありますが、是非、今度は10回または15回連続で本格的なSFを取り上げて頂きたいものです。



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押入れのちよ 原作:荻原浩(青春アドベンチャー)

作品:押入れのちよ
番組:青春アドベンチャー
格付:B
分類:ホラー
初出:2007年9月10日~9月14日(全5回)
原作:荻原浩
脚色:浜田秀哉
演出:江澤俊彦
主演:今井朋彦ほか

後の直木賞作家・荻原浩さんの短編集「押入れのちよ」(全9編)から5編を取り上げてラジオドラマ化した作品で、各1回(15分)ずつ全5回で放送されました。
荻原さんは本作品と同じ2007年に、もう1作、「僕たちの戦争」が青春アドベンチャーで原作として取り上げられているほか、10年インターバルを開けて2017年に「金魚姫」が採用されています。

本作品は、タイムスリップものであった「僕たちの戦争」とは異なり、青春アドベンチャーでは意外と少ないホラー作品です。
といっても明確に恐怖心をあおるような作品は第2話と第3話だけで、第1話と第5話は切なくも優しい、ファンタジーに近い作品です。
また、第4話には終盤に(少しやけっぱち気味ですが)笑いの要素すらあります。
そのため、純然たるホラー作品を期待すると少し期待外れになると思いますので、ご注意ください。

さて、本作品のタイトル、主演俳優、内容及び一言感想は以下のとおりです。
各話の間につながりは全くなく、主人公もそれぞれ別。
主演の俳優さんも基本的に1話ごとに異なるのですが、その主演の俳優さんがモノローグの形でナレーションをする形式になっています。
なお、原作9編のうち「お母さまのロシアスープ」、「介護の鬼」、「予期せぬ訪問者」、「しんちゃんの自転車」の4編はラジオドラマになっていません。

話数 タイトル 主演俳優 粗筋 一言
1 押入れのちよ 今井朋彦 失業した男が引っ越してきたボロアパートには明治39年生まれの少女の幽霊が住んでいた。 ホラーというよりファンタジー。ちよ役の三村ゆうなさんの古風なしゃべり方に癒される。
2 七日間(原題「老猫」) 吉見一豊 遺産として受け継いだのは屋敷だけではなく、従兄弟が飼っていた老猫も一緒だった... 「何かが住み着いていた」という点は「押入れのちよ」と同じだが、こっちは純粋なホラー
3 木下闇(このしたやみ) 広瀬彩 幼い頃に妹が行方不明になった従兄弟の家。心残りがある姉は久しぶりにその家を訪ねるが... これも明確なホラー。最後はちょっと意外だがあまり怖くはない。
4 殺意のレシピ 吉見一豊・深浦加奈子 妻と別れたい夫と夫と分かれたい妻。それぞれが邪な計画を抱いて夕食に臨むが。 夫と妻の命を懸けた騙し合い...のはずだがなぜか話はいつしかお笑いに。
5 コール 今井朋彦 死んだ夫と、夫を失ったばかりの妻と、二人の友人。夫は友人にある約束していたのだが。 「声が似ている」という設定の二役を演じる今井朋彦さんの演じ分けが聴きどころ。

青春アドベンチャーでラジオドラマ化された原作小説のある短編作品集で、脚本家は同一で各話につながりが全くない作品というのも珍しく、あえて挙げるとすれば「ごくらくちんみ」くらいでしょうか。

なお、演出の江澤俊彦さんは「最後の惑星」、「神々の山嶺」など多くの作品を担当されている方ですが、脚色の浜田秀哉さんは本作品のほかには、「死神の精度」しか担当されていない珍しい方です。


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