青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

風の向こうへ駆け抜けろ 原作:古内一絵(青春アドベンチャー)

作品:風の向こうへ駆け抜けろ
番組:青春アドベンチャー
格付:AA+
分類:職業
初出:2017年10月2日~10月13日(全10回)
原作:古内一絵
脚色:大河内聡
音楽:川崎良介
演出:吉田浩樹
主演:朝倉あき

「初めっから勝ち組は決まっているんだよ…」
淡々とした口調で先生が吐く言葉は、あるいは真実なのかもしれない。
「競馬の名門に生まれて技術もある。そんなやつには地方競馬出の雑草なんて、とても太刀打ちなんかできない。」
でも、でも…悔しい!
そう、私の中にある思いもまた真実だ。
「先生、教えてください。私、勝ちたいんです。」

――――――――――――――――――――――――――

冒頭の粗筋は、このラジオドラマ「風の向こうへ駆け抜けろ」第4回の終盤のセリフをベースに再構成したものです。
正直最初は、新人ジョッキー芦原瑞穂と調教師・緑川光司との、この部分のやり取りをそのまま載せてしまおうかとも思ったんですよ。
スローペースで始まったこの作品ですが、この第4回終盤の「熱さ」がとても印象的でしたので。
でも、激アツだからこそ、是非、ご自身で聞いてほしいなあという思いから敢えて一部だけの抜粋にとどめました。
となると、やはり聞き逃し配信はもう少し長めにやって欲しいという話になってきます。
少なくとも第二週を聴いて関心をもった方が最初から聴けるくらい(2~3週間くらい?)には。
この番組だけ聞き逃しの期間を延ばすのは難しいと思うのですが、2週間続くという番組の性格上、青春アドベンチャーは特例扱いでお願いしたいものです。

さて、本作品「風の向こうへ駆け抜けろ」で主人公・芦原瑞穂を演じている朝倉あきさんは、FMシアターや青春アドベンチャーではおなじみの女優さんで「幻想郵便局」、「放課後はミステリーとともに」、「想い出あずかります」など多くの作品に主演されています。
どの作品で演じたキャラクターからも、どこかほわほわしつつも、とても気持ちのいい独特の雰囲気を感じます。
本作品の瑞穂も、明るく、素直で、前向きのキャラクターなのですが、朝倉さんご自身はTVドラマ「トリック新作スペシャル3」で見せていただいたような「怪演」もできる女優さん。
冒頭紹介した第4回は後ろ向きのセリフが多い「鬱回」ですが、終盤に一気に盛り上がるのは女優・朝倉さんの迫力のある演技力あってです。
とはいえ、個人的に朝倉さんのとぼけたような「えーー!」というセリフ(なぜかどの作品でよくでてくる)も大好きなんですけどね。

また、その朝倉さんの演技を受ける、「やる気ゼロ調教師」緑川の東幹久さんの演技も、またぴったり。
いつも気だるげに話す緑川が、冒頭の会話の後に電話をかける場面は、この第四話までを締めるシーンとして秀逸です。
「安い馬だ!」には笑いましたが。
「締める」といえば、毎回ドラマの最中から流れているBGMがそのままエンディングテーマになってキャストやスタッフ紹介のバックにも流れる演出も秀逸。
私、これ、好きなんですよね。
80年代の秀作「A-10奪還チーム出動せよ」(笹原紀昭さん演出)などでも効果的に使われていました。

さて、いきなり濃い話になってしまってすみません。
改めて作品の概要を説明します。
本作品は競馬を扱った作品です。
青春アドベンチャーでは過去に馬がらみの作品としては、1999年放送の「名馬 風の王」と、「サウンド夢工房」時代の1990年に放送された「夢のたてがみ」があるのですが、本作の舞台は地方競馬。
広島にあるという設定の架空の地方競馬「鈴田競馬」が舞台です。
実際に広島には「福山競馬」という地方競馬があるわけですが、あえて全く聞いたことがない「鈴田競馬」という名称を使うことによって、一層の場末感が感じられます。
その地方競馬にスカウトされてきた新人ジョッキーの瑞穂ですが、やってきてすぐに鈴田競馬の実情に愕然。
どう酷いかは聞いてのお楽しみなのですが、特に酷いのが所属することになった厩舎。
「八百長」と陰口をたたかれやる気が全くない調教師。
失語症で話すことができない教務員(でもイケメン)。
瑞穂を敵視する老厩務員(「女になんか!」)。
そしてありえないほど年を取っている老競争馬などなど。
もちろん勝てません。
そんな中でもさらなる試練が…
というわけで冒頭のシーンにつながるわけです。
言ってみればコテコテの展開。
でもコテコテの演技と良質のBGM(作曲は「七帝柔道記」の川崎良介さん)、そして秀逸な演出で、とても聞きやすい作品になっています。
「演出」といえばこの作品、主人公のモノローグを除き、ほとんどナレーションがないんですよね。
ナレーションの使い方はラジオドラマの肝で、「妖精作戦」のようにナレーションなしでスピード感を演出する作品もありました。
本作品は内容上、競馬シーンという、どうしても音だけでは表現が難しいシーンが入らざるを得ないのですが、ここを「競馬の実況」という形でごく自然にナレーションを入れられるという点で、この作品はそもそもラジオドラマ向きなのだと思います。
そうそう競馬の実況といえば、本作品で「鈴田競馬」の実況を担当するのはお笑いコンビ「ナイツ」(3年連続M-1グランプリ準優勝)のツッコミ担当・土屋伸之さん。
本来は「市役所の広報の大泉」という役どころなのですが、鈴田競馬活性化のために自ら実況を買って出た、という設定のもと、実況も担当します。
土田さんは馬や競馬が大好きで競馬番組にもご出演されているのは周知のとおり。
そして、競馬好きといえば調教師・緑川を演じる東幹久さんも大の競馬好き。
恐ろしく凝った配役ですね。
他にも、鈴田競馬以外の実況を小林雅巳アナ(敢えてNHKのアナではなく競馬専門チャンネルの専業アナに依頼するとは!)に担当させたり、競馬指導として実際の女性ジョッキー岩永千明さんを起用したり、さがけいばや船橋競馬に協力をしてもらったり、広島ことば指導を置いたり、そして何より、直前の放送作「また、桜の国で」同様に演出家・吉田浩樹さん(「ふたり」)ご自身が積極的な情報発信(外部サイト)をされたり、手が込んでいます。

さて、本作品は競馬という男性社会に戦いを挑む女性の話ではあるのですが、必ずしもそれが強調された作品ではありません。
そもそも朝倉さんの声質のおかげでジェンダー面で「戦いを挑む」という感じにはなりにくいというもありますが、個人的には強者に対する弱者、すなわち中央競馬に挑戦する地方競馬という位置づけを強化するために、あえてその中でもマイノリティーである女性を主人公にしているのだと思います(もちろん一番は原作者自身が女性であることが大きいでしょうか)。
つまり、戦っているのは瑞穂だけではない。
緑川をはじめする厩舎が一丸となって戦っていくのが本作品の魅力です。
この緑川厩舎の個性的な面々を演じた方々がやはり印象的。
厩務員・木崎誠を演じた永嶋柊吾(ながしま・しゅうご)さんは、第5回のモノローグ以外はほとんどうめき声程度しかださず、終盤までまともなセリフはほとんどないという、思い切った出演の仕方です。
また、広島出身の政岡泰志さんは、常に賞金に拘る厩務員・トクちゃんをネイティブの広島弁で楽しく演じ、先代から緑川厩舎を支える老厩務員・カニ爺は野村昇史がしっかりと演じています。
これらの緑川厩舎の面々に加え、緑川厩舎の馬たちのお母さんツバキオトメや、「見た目はちょっとアレ」だが非凡な才能を秘めた女傑フィッシュアイズが作り上げていくドラマが、最終回の「絶対に負けられない戦い」(報知杯フィリーズレビュー(桜花賞トライアル)=GⅡ!)に向かった収束していくのはなかなか見事です。
なお、各回には以下のとおりのサブタイトルが付いています。

第1回 : 行け!新人ジョッキー
第2回 : いざ、デビュー戦
第3回 : ジョッキーブルース
第4回 : 藻屑の漂流先
第5回 : 本気の地方競馬
第6回 : 人馬一体
第7回 : つかめ、初勝利
第8回 : めざせ、GⅠ
第9回 : 死力を尽くす権利
第10回 : たったひとつのマイロード

正直、全10回で収まりきれる話ではなく、特に後半は少しあっさりと進み過ぎるきらいはあります。
間、間できっと色々とあったであろうことは、脳内で補完しつつ(あるいは原作小説を読みつつ)聴くのがよかろうと思います。

さて、本作品の原作には続編があります。
「蒼のファンファーレ」(2017年6月・小学館)。
「風の向こうへ駆け抜けろ」の翌年を描いているとのこと。
こうなったら続編もラジオドラマ化してほしいものです。


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想い出あずかります 原作:吉野万理子(FMシアター)

作品:想い出あずかります
番組:FMシアター
格付:AA
分類:幻想(日本)
初出:2011年11月26日(全1回)
原作:吉野万理子
脚本:吉野万理子
音楽:森悠也
演出:小見山佳典
主演:鶴田真由

二十歳の誕生日を前に、海辺の街に帰省した里華(りか)。
親への挨拶もそこそこに出かけて行ったのは、波打ち際に建つ「想い出質屋」だった。
この店の店長は普通の人とは違う不思議な人。
この店は想い出を預かる代わりにお金を貸す不思議な店。
しかし、人は二十歳を過ぎると、この店に行けなくなってしまう。
最後のチャンスに店を訪れた里華は、中学3年生で初めて訪れてからのこの店の想い出を店長さんと語りあうのだった。

――――――――――――――――――――――――――

本ラジオドラマ「想い出あずかります」は、NHK-FMのラジオドラマ番組FMシアターで、全1回・50分で放送されたラジオドラマです。
原作は吉野万理子さんの同名の小説。
それを吉野さんご自身がラジオドラマ用に脚色されています。
これは「青春アドベンチャー」で放送された「恋愛映画は選ばない」(2013年)と同じパターンです。
吉野さんはもともと脚本家出身なのでお手の物なのかもしれませんが、さすがに原作者ご自身の脚色というだけあって、FMシアターの50分枠にぴったりとあった脚本になっています。
原作は読んだことはないのですが、本作品の良さの一つは、中だるみがなく、かつ、駆け足でもない、この脚色にあると感じました。

さて、本作品は冒頭の粗筋でわかるとおり、現代日本を舞台にしつつ、そこに不思議な要素を絡めたファンタジー作品です。
カッコよく言えば「マジックリアリズム」というジャンル名になるのでしょうか?
いずれにしろこのような「大人のおとぎ話」的な作品は、青春アドベンチャーでの「不思議屋シリーズ」や「家守綺譚」、「ウォーターマン」、最近では「金魚姫」や「予言村の転校生」の例を挙げるまでもなく、NHK-FMのラジオドラマの定番ジャンルです。
ただし、個人的な感想で恐縮ですが、正直、私、この手の作品があまり好きではありません。
評価する人が多い「家守綺譚」も個人的にはそこそこ程度。
本作品は「金魚姫」のような興味を惹かれる独特の暗さや毒はありませんし、「ウォーターマン」のようなストーリー展開上の仕掛けもない。
しかし、なぜか本作品は気持ちよく聴くことができました。
その理由の一つは先に述べたとおり原作者ご自身の手による、よくまとまった脚色。
これに良くマッチした森悠也さんの優しい音楽も外せません。
そしてやはり実質的な主演といえる朝倉あきさんの演技が大きいと思います。
この記事をアップした2017年10月の新作「風の向こうへ駆け抜けろ」にも主演されている朝倉さんですが、私、「幻想郵便局」(2012年)の記事で「朝倉さん、特に「上手い!」という感じではないのですが」などと失礼なことを書いてしまっています。
しかし、本作品では無機質な鶴田真由さんの演技との比較になるからか、十分に上手いと感じます。
そして作品内容についても「大人のおとぎ話」にありながら、「不思議な存在に優しく癒される」だけの作品ではない。
「想い出質屋」の店長は、想い出を預かることによって人の記憶を消去します。
お客が質屋に持ってくる想い出は、消去しても良いと考える想い出なので、基本的には嫌な想い出ばかりなのですが、店長は必ずしもお客を思いやって想い出を消去しているわけではない。
というのも、店長は「みんなが持っている当たり前の気持ち」を理解することができないのです。
その店長に対して初対面から「嫌な想い出も良い想い出もすべてがその人を形作っている。嫌な想い出でも捨てるべきではない」と主張する里華。
ありがたいな展開だと「人生はそんな単純なものではなく、時に忘れていいこともあるんだ~」、「それが癒しだ~」的なゆるい結論になりそうですが、そうはならない。
かといって、里華の主張を全面的に肯定して「人生は戦いだ~」「逃げちゃだめだ~」的なマッチョリズムを押し付けるわけでもない。
むしろ優しさに包まれて癒されたのは店長のほうではないか。
その辺がこの作品を私が好ましく感じた理由なのではないかと思います。

出演者については、上で書いたように、朝倉あきさんと鶴田真由さんのダブル主演といって良い作品だと思います。
鶴田真由さんについては、上で「無機質な」と書きましたが、この記事アップの2カ月ほど前に放送された「異人たちとの夏」(FMシアター)でもそうだったのですが、役柄上、あえて少し浮世離れした雰囲気作りをされているのだと思います。
その他、里華の友人・芽依(めい)役の山下真琴さん(「移動都市」など)、里華の彼氏・雪成(ゆきなり)役の佐藤ユウヤさんあたりが主要なキャストです。


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