青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

しゃばけ2 原作:畠中恵(青春アドベンチャー)

作品:しゃばけ2
番組:青春アドベンチャー
格付:AAA-
分類:伝奇
初出:2004年3月29日~4月9日(全10回)
原作:畠中恵
脚色:佐藤ひろみ
演出:吉田努
主演:金子貴俊

「しゃばけ」(娑婆気)とは、俗世間における様々な欲望に囚われる心のことをいう。
人は「しゃばけ」に囚われて罪を犯してしまう。
この作品は、薬種問屋「長崎屋」の若旦那で、病弱だが心優しい一太郎(いちたろう)が、彼を慕う「妖」(あやかし)たちの手を借りながら、しゃばけが巻き起こした事件の数々を解決していく物語である。

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畠中恵さんが「しゃばけ」で、第13回ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞してデビューしたのが2001年(単行本刊行は2001年12月)。
青春アドベンチャーは半年も経たっていない2002年4月には早くもこの作品をラジオドラマ化しました。
その後、この「しゃばけ」シリーズは急速に人気が出て、2007年には手越祐也さん主演でTVドラマ化されたのはご存知のとおりです。
青春アドベンチャーのスタッフの初動の速さが分かります。
そして、2003年には続編「ぬしさまへ」が出版。
それを受けて翌年にはこの作品もラジオドラマ化されました。
それがこの「しゃばけ2」になります。

この「しゃばけ2」、なぜか演出が松本順さんから吉田努さんに代わりましたが、脚色は佐藤ひろみさんで代わらず。
作品全般の雰囲気も殆ど変わりません。
もちろんキャストもほぼそのまま。
主人公の一太郎を演じる金子貴俊さんの他、長崎屋の「助さん格さん」(?)こと、佐助と仁吉を演じる中村まことさんと大竹周作さんや、語りの永井一郎さんなどの主要キャストは完全にそのままです。
特に、5人で鳴家(やなり)を演じる、下山彩那さん、鈴木つばささん、石川由依さん、鈴木里彩さん、小川李子さん、の全員が続投しているあたり、作り手の意地すら感じます。
とはいえ、鳴家の演出がこの作品の雰囲気作りに与えている影響は大きいようにも感じられますので、鳴家役5人の続投は意外と重要事項だったのかも知れません。

一方、前作と大きく異なるのが、前作「しゃばけ」が全10回で一つながりの長編であったのに対して、本作品はひとつの話しが1~2回で完結する短篇作品であること。
また、「虹を見し事」を除き、妖(あやかし)自身が事件をおこなすのではなく、基本的に事件を起こすのは人間で、妖(あやかし)の主な役割は一太郎への捜査協力であることも、前作との違いです。
そのため、本作では、一太郎に協力する妖(あやかし)たちの捜査能力が圧倒的であることもあり(なにせ人外の存在ですからどこにでも入れる)、一太郎の推理劇?が小気味いいペースで展開されます。
そして、単なる「快刀乱麻」で終わらない余韻のある結末で終わる話しが多い。
本作品が「痛快人情推理帖」と称される所以でしょう。
ちなみに妖怪は出てきますが、決してホラー作品ではなく、ホラーが苦手な方も気にせず聞くことができます。
ただ第9回にだけは、怖がらせることを目的とした少しだけどっきりさせられる演出もありますが。

なお、本作品は原作に収録されている6編全てをラジオドラマ化しています。
青春アドベンチャーでは、「放課後ミステリーとともに」や「ウォーターマン」など、短編集をラジオドラマ化する場合に、数話がラジオドラマから漏れてしまうことが多いものです。
その点からも本作品はファンには嬉しい作品ですね。

さて、全6話の放送された回数と粗筋は以下のとおりです。
第2回と第7回のみ、回の途中でストーリーが終わり、後半は別のストーリーが始まります。

回数 タイトル 粗筋
第1回・
第2回前半
ぬしさまへ 火事騒ぎの晩に、おくめという娘が堀に浮かんだ。生前のおくめには相反する良い評判と悪い評判があった。どちらが彼女の真の姿なのか。そしておくめを殺した犯人は?
第2回後半・
第3回
栄吉の菓子 一太郎の幼なじみで、菓子屋の跡取りである栄吉が作ったまんじゅうを食った老人が死んだ。栄吉の嫌疑はすぐに晴れたが、死んだ老人には不審な親族がいたようなのだ。
第4回・
第5回
空のビーロド 桶屋・東屋で働く一太郎の腹違いの兄・松之助。いつまでも小僧扱いでこき使われていた松之助だが、ある日、おかみさんの猫を殺したという疑いまで掛けられてしまう。
第6回・
第7回前半
四布(よの)の布団 新品の布団に潜ると女の泣き声が聞こえてきた。早速、布団屋の田原屋に出かけた一太郎だが、そこで待っていたのは、厳格で強面の主人と、通い番頭・喜平の死体だった。
第7回後半・
第8回
仁吉の思い人 相変わらず病弱で、薬を飲むことすら嫌がる一太郎。そんな彼が頑張って薬を飲む見返りとして仁吉が打ち明けたのは、彼と妖・吉野との千年にも及ぶ恋の物語だった。
第9回・
第10回
虹を見し事 ある日、いつもなら部屋で騒いでいる馴染みの妖たちが消え、代わりに見知らぬ妖の気配がするようになった。一太郎は自分が誰かの夢に入ってしまったのだと推測し、脱出の策を考え始めるが。

このうち「空のビーロド」では一太郎は終盤に少ししか登場しません。
実質的な主人公は兄の松之助(演:大沢健さん)で、妖もほとんどど登場しませんし、一応、真相が明かされる趣向はあるものの探偵役もいません。
推理ものというより、人情ものの色が強い異色の回であり、ある意味、この「しゃばけ2」を象徴するエピソードです。
それにしても松之助が不憫すぎます。
周りの誰からも愛されている(甘やかされている)弟・一太郎と比較すると、この事件以降(第9回など)の扱いも含めて、何とも不条理でやるせない境遇です。
しかもそれなのに、この「空のビーロド」のラストでちょっとした嬉しいことで大泣きしてしまうあたり、一層、不憫さをかき立てます。
また、「仁吉の思い人」も、仁吉が実質的な主役。
しかもちょっと意外なオチが付きます(不覚にも予測できなかった!)。
さらに、「虹を見し事」も謎解きはありますが、犯罪を暴くという意味での推理ものではありません。
切ない思いが明らかになるのと、一太郎の大人になることの決意が描かれた、短編集を締めくくるにふさわしい爽やかなラストです。

さて、このラジオドラマ版「しゃばけ」シリーズの、大きな魅力となっているもののひとつが、一太郎を演じる金子貴俊さんの演技。
決してせりふ回しがうまいというわけではありませんが、もともと金子さんが持つとぼけた質の声と、バラエティ番組でも感じられる金子さんに軽妙な演技は、一太郎によくはまっています。
また、その他の演者さんたちもさすがに2作目だけあって手慣れた感じです。
そして、鳴家(やなり)の演技や効果音、BGM、演出、そしてこれらをまとめる永井一郎さん(「サザエさん」の波平といえば誰もがご存知!)のナレーションも含めてとても気持ちの良い作品です。
となると、期待したいのはやはり第3作目以降のラジオドラマ化。
第3弾「ねこのばば」(短編集)以降、まだ11作品も残っています。
「しゃばけ2」以降、10年以上も経ってしまっているので難しいのだろうとは思いますし、永井一郎さんがすでに亡くなられているのが致命的なのかも知れませんが、何とかお願いしたいものです。


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また、桜の国で 原作:須賀しのぶ(青春アドベンチャー)

作品:また、桜の国で
番組:青春アドベンチャー
格付:AAA-
分類:歴史時代
初出:2017年8月28日~9月1日(全15回)
原作:須賀しのぶ
脚色:藤井香織
音楽:山下康介
演出:藤井靖
主演:井上芳雄

中学を卒業後に外務省の留学生試験に合格してから早10年。
1938年、日本の外務書記生・棚倉慎(たなくら・まこと)はベルリンからワルシャワへと向かう列車の車上にいた。
先の大戦で傷つき、疲れ果てた欧州。
欧州中のすべての人々が平和を渇望しているはずだった。
しかしこのポーランドを覆う暗い影は何なのだ。
歴史上幾度も他国に侵略され国土を失ってきたポーランドはまた何かに怯えているかのようだ。
何かとは?
それは領土的な野心を隠そうとしない隣国・ナチスドイツなのか。
それとも平和のためなら小国の滅亡にすら目をつぶろうという大国の無関心なのか。
いくつもの価値観の間で押しつぶされるポーランドの人々。
自身、日本とロシアという二つのアイデンティティの狭間に立つ慎は、この踏みにじられ、引き裂かれた国で何を目にするのか。

――――――――――――――――――――――――――

…というわけで、例によってまずは「また、桜の国で」のストーリー紹介から初めてみたのですが…
ダメですねえ。
どうにも作品の雰囲気が伝わりません。
公式ホームページのキャッチコピー「たとえ憎悪と暴力が世界を覆いつくしても、この想いは消えない。」の詩情の豊かさには到底敵いませんね。
それにしても、この1行コピー、どなたが考えていらっしゃるのでしょう。
私もtwitterでブログ更新を告知する際に簡単な作品紹介文を考えるのですが、なかなかうまくいきません。
見習いたいものです。

さて、話が逸れましたが、今回の紹介作品は須賀しのぶさん原作の「また、桜の国で」(第156回直木賞候補作)です。
須賀しのぶさんといえば、本作品と同じ2017年の1月に初めて「帝冠の恋」が取り上げられたばかりの方。
それからわずか半年で2作品目です。
青春アドベンチャーで、今まで取り上げられていなかった作家が急に連続して取り上げられることには前例があり、1993年のマイクル・クライトン(「ジュラシック・パーク」と「スフィア」)や2007年の荻原浩さん(「僕たちの戦争」と「押入れのちよ」)がそれに該当します。
しかし、イレギュラーな事態であることは確かです。
スタッフを見ると、「帝冠の恋」と「また、桜の国で」は藤井靖さん演出、山下康介さん音楽など、かなり類似しており、制作統括を兼ねる藤井靖さんの強い「推し」が感じられます。
ちなみに「山下康介さん音楽の作品に外れなし」というのは私の持論です。
本作品の音楽も、決して自己主張の強い音楽ではありませんが、作品に寄り添う良い劇伴だと思います。

さて、主人公はロシア系の日本人である若手外交官・棚倉慎(たなくら・まこと)。
NHK-FMの外交官を主人公にしたラジオドラマとしては「プラハの春」(青春アドベンチャー)や「東の国よ!」(FMシアター)があります。
考えてみると、「異国の文化を理解し共感を持たずには外交官として生きていけない。しかし自国の権益のために異国と一線を引かなければ外交官である資格はない。」(レイモンド・チャンドラー風に書いてみました(笑))訳で、その葛藤はドラマの宝庫となりえる条件を備えています(まあ、前者の特に続編の「ベルリンの秋」は別の意味でドラマチックでしたが。)。
慎にも激動の時代と大きな葛藤が待っているわけです。
そう、彼が外交官として赴任したワルシャワはすでに第二次世界大戦前夜の状況にあるのです。
歴史を俯瞰してみることができるわれわれからすると、この後の悲劇的な展開はすでに周知の事実であるのですが、彼はまだそれを知りません。
彼はその出自のなせるわざか、偏狭な民族主義に一定の距離を置き、悲劇の歴史を続けるポーランド国民に寄り添い、この大戦に向き合うことを決めます。
日本の在ワルシャワ大使館もまた戦争回避のために全力を尽くすのですが、時代は否応なしに動き始めてしまいます。
物語では、まずこの日本大使館の面々がなかなかに魅力的。
大使館の主で、あくまで誠実に平和を追い求める酒匂大使を演じたのは鈴木壮麻さん。
「帝冠の恋」の宰相メッテルヒニが強烈過ぎましたが、今回は口調がメッテルニヒとはかなり違い、誠実さが喋りからにじみ出ているのが見事。
情熱的な後藤副領事を演じた栗原英雄さんもナイペルク伯役でしたので、この二人は「帝冠の恋」コンビですね。
そして粟野史浩さん演じる慎の同僚の織田寅之助や、坂本真綾さんが演じるヒロイン・マジェナ(フルネームはマジェナ・レバンドスカヤ)を含め、とても良い一体感がでています。

しかし、物語が進むににつれ、この大使館関係者の多くがフェードアウト。
代わりにクローズアップされていくるのが、慎に準じる主人公格ともいえる3人の男性。

まず、慎に自分のアイデンティティを考えさせることになるユダヤ系の青年ヤンを演じたのは亀田佳明さん。
すでに「フラワー・ライフ」で主演経験があります。
ヤンは途中で徴兵され行方不明になったり、強制収容所に送られたりして、意外と登場シーンは少ないのですが、終盤の重要な段階で再登場。
慎を含めた4人の中でも最も過酷な人生をたどるヤンの鬱屈したしゃべり方を亀田さんが巧みに演じています。

そして、シカゴプレスの記者であるアメリカ人・レイ(レイモンド・パーカー)。
独特の陽気なしゃべり方や気障ったらしい口笛は、恐らく演出上のもの(ポーランド人でも日本人でもないという状況をしゃべり方であらわしているのでしょう)でしょうが、中川晃教さんによる、その微妙にうさん臭い演技がなかなかイイ感じです。
「誰よりも早く正確に真実が知りたい。」
「イデオロギーや国のご都合で歪められたものではなく、本物が見たい。そういうとき底辺に突き落とされた連中のもとに降りていくの一番いいってことさ。」
軽薄そうに見えるレイですが、彼の言葉にはリスナーに訴えかける力があります。
「(ポーランド人は)プライドばかりが高い。現実を見ることができないヤツばかり。」
ポーランドに対しても結構辛辣です。
後半に、レイのモチベーションの源泉である、ある意外な事実が判明し、実は結構ウェットな理由で彼が動いていたことがわかるのですが、彼はやはり感情だけで動く人間ではない。
「俺は、この目で見て、この耳で聞いたことしか信じない。」
ぶれない言動はさすがです。
中川さんも「1492年のマリア」で主演経験があるほか、「髑髏城の花嫁」にも出演経験がありますが、役の良さもあり、このレイが今までの青春アドベンチャーにおけるベストアクトなのではないでしょうか。

さらにレジスタンス組織「イエジキ部隊」の指揮官として強烈な存在感を示すのが豊田茂さん演じたイエジ。
なんと彼は実在の人物で、戦後に来日もしているようです(参考:外部サイト)。
本作品のクライマックスは1944年の、いわゆる「ワルシャワ蜂起」ですので、終盤、イエジは大活躍です。
「ワルシャワ蜂起」とは第二次世界大戦末期、ポーランドの開放を目指してAK(ポーランド国内軍)を中心とする勢力が起こした武力蜂起ですが、最終的にはドイツ軍の反撃とソ連軍の見殺しにより、軍民20万人以上のポーランド人が死亡して鎮圧されました。
よって、「大活躍」が「大勝利」も結びつくわけではないのですが。

そして、何より、彼ら過去の青春アドベンチャー主演クラスの曲者と絡む肝心の主人公・慎を演じた「ミュージカル界のプリンス」こと井上芳雄さんの演技が素晴らしい。
井上さんは、東京芸術大学在学中にミュージカル「エリザベート」のルドルフ役でデビューして以降、端正な容姿と高い歌唱力で多くのミュージカルで話題になったミュージカルスターです。
実は当ブログで昨年実施したアンケート「青春アドベンチャーに出演してほしい役者さん」でも名前も挙がっていました。
当ブログの推薦で出演が決まった…というわけでは全くなく、この作品に限らず、近年の藤井靖さん演出作品ではミュージカル(宝塚歌劇含む)経験者を多用する傾向にあるので、その流れで、なのでしょう。
最近の藤井靖さんは90年代の川口泰典さんに匹敵するくらい、たくさんの青春アドベンチャー作品を送り出しているのですが、キャスティングにおいても小劇団出身者と宝塚女優を多用した川口さんに匹敵するご自分の「色」がでているように感じます。
なお、藤井さんご自身による収録リポート(外部サイト)でも触れられていましたが、これだけ歌えるメンバーをそろえているのに歌うシーンがないというのも、なかなか面白いところです。
ちなみに、この収録レポート、全5回にも亘っており、ファン必見です。
というか、この収録レポートを読めば、こんなのブログなんか読まなくてもよいのではないか、とすら思えます(笑)

さて、現実の歴史的事件を下敷きにしたこの作品。
オリガ・モリソヴナの反語法」に続く、藤井靖さん演出による東欧もの第2弾といってもよい位置づけの作品だと思いますが、オリガ・モリソヴナと同様に一般の日本人は通り一遍の知識しかない国・時代が舞台。
しかし、「アウシュビッツ強制収容所」、「カティンの森事件」、「杉原千畝」といった有名なキーワードを織り交ぜつつ、全15回を掛けて丁寧に描いているおかげで違和感なく聴き進めることができました。
中盤までは残虐性は抑えた展開で、適度に客観的であるのも好感が持てます。
実際の第二次世界大戦の開戦日(ポーランド侵攻:1939年9月1日)にぴったりあせて放送するスケジュールにはびっくりしました。
個人的には、結末に爽快感のあった「オリガ・モリソヴナの反語法」と比較して、エピローグに時間を割いている割に余韻に物足りなさは残りましたが、菅生隆之さんの渋い声で締めるのもこれはこれでよいと思います。


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