青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

水晶宮の死神 原作:田中芳樹(青春アドベンチャー)

作品:水晶宮の死神
番組:青春アドベンチャー
格付:C+
分類:幻想(海外)
初出:2017年10月16日~10月27日(全10回)
原作:田中芳樹
脚色:矢内文章
演出:藤井靖
主演:大内厚雄

11月のロンドンはとても大英帝国の首都とは思われないくらい沈鬱だ。
こんな天候では、貸本屋「ミューザ―良書倶楽部」に勤めるエドモンド・ニーダムだって気の晴れようもない。
ようやく晴れ間の覗いたある日、姪のメープル・コンウェイが思いついた気晴らしは、水晶宮(The Crystal Palace)への小旅行だった。
第1回万国博覧会の会場として建てられた水晶宮は、1854年にロンドン郊外のシデナムの丘に再現され、多くの観光客を集めている。
行われている催しが「インドの大魔術」などという俗っぽい見世物であること気が進まないニーダムだったが、可愛くかつ押しの強い姪の誘いに負け、とにかく出かけてみることした。
もちろん、そこで首なし死体が待っていることなど予想もせずに。

――――――――――――――――――――――――――

いやー、毎日雨ですねえ。
突然すみません。
本作品「水晶宮の死神」は、陰鬱な11月のロンドンを舞台としているのですが、どういう訳か、この作品が放送されている2017年10月中・下旬の首都圏も日本の10月とは思えないくらいの雨続き。
「水晶宮の死神」については大気汚染が酷かったヴィクトリア朝時代の、しかも11月のロンドンを舞台としているので当たり前の天候なのですが、10月の日本については、秋雨前線や台風の影響とはいえ天気が悪すぎ。
こんなところまでシンクロしなくてもよいのにと思います。

さて、本作品は田中芳樹さん原作のヴィクトリア朝怪奇冒険譚3部作の完結編です。
第1弾「月蝕島の魔物」が放送されたのは2012年。丁度、このブログを始めた年でした。
第2弾「髑髏城の花嫁」は翌2013年初頭に放送されたのですが、その後、この第3弾の放送までには5年近くを要しました。
というのも、原作の刊行自体がストップしていたんですね。
以下の安達裕章さん(田中芳樹さんの版権管理会社の方)のtweetによれば、演出の藤井靖さんは完結をずっと待っていた様子です。
結局、2017年7月に原作本が出版されるや、わずか3か月後にはラジオドラマ版が放送されることになり、青春アドベンチャー系列の番組全体でも8番目(本作放送時点)の長期シリーズになりました。




本作品も舞台は19世紀後半、いわゆるヴィクトリア朝時代の英国です。
当時のイギリスは世界帝国(いわゆる大英帝国)を築き上げ、産業革命の成果のもと近代科学文明に基づいた最初の覇権国家として、その絶頂期にありました。
文化的にも黄金期、爛熟期にあり、一般大衆も展覧会、博覧会等を通じてそれを享受することができるようになりつつありました。
しかし、この繁栄は、植民地搾取と貧富の差の固定化、科学技術の濫用に基盤を置くものであり、国内治安の不安定化、植民地搾取へ反発、大量殺りく兵器の出現といった次のいわゆる「戦争の世紀」の序章ともいえる、矛盾の時代でもありました。
「切り裂きジャック」(1888年に犯行)もまた、この矛盾の時代を象徴する事件のひとつでしょう。
矛盾の時代であるがゆえにフィクションの題材にはこと欠かない時代でもあります。
シャーロック・ホームズシリーズ(ホームズは1852年生まれとされる)、「フランケンシュタイン」(1818年出版)、ドリトル先生シリーズ(時代設定は1830から1840年代とされる)、最近では森薫さんの漫画作品「エマ」(水晶宮も詳細に描かれていました)がヴィクトリア朝の雰囲気をよく表していると思います。

さて、この二面性のある時代を舞台とすることからもわかるとおり、本シリーズもまた二面性を持っています。
というのも、各作品とも、冒頭は、推理ものかサスペンスものかという雰囲気で始まるのですが、タイトルが「ヴィクトリア朝怪奇冒険譚」(Victorian Horror Adventures)とされていることからもわかるとおり、実はホラー作品。
途中から超常現象がらみの事件であることがわかり、どんどん事件はわけのわからない方向に進んでいきます。
そもそもホラーといっても田中芳樹さんの作品ですので全然怖くない、というよりむしろ笑ってしまうような展開ばかり(「夏の魔術」もそうでしたね…)。
本作品も、首なし死体から始まり、「クリスマス・キャロル」のディケンズ、ウィッチャー警部や若き日のモリアーティー教授(そもそもフィクションの人物ですが)の登場あたりまでは推理劇としての期待を持たせるのですが、死体が泡になって蒸発するとともに、その期待も蒸発…
前半最後の「●●王時代の壁画」あたりで嫌な予感がしたとおり、後半戦は例によってB級、いやC級ホラーになってしまいました。
前作「髑髏城の花嫁」は、粟野史浩さんや中川晃教さん(中川さんはこの後、「1492年のマリア」を経て「また、桜の国で」で青春アドベンチャーを代表する俳優さんのおひとりになったと思っています)の好演もあり、後半もファンタジーとしてそれなりの緊張感を保っていたのですが、本作品は第1作の印象に逆戻り。
今井朋彦さんが演じる「死神」の「黄金バット」ばりの高笑いばかりが印象に残り、後半のストーリー展開は意味不明で、怪物の正体も結局、推測だけ。
確かに、ホラー作品なので犯行理由や犯人の正体に論理的な説明はいらないのかも知れませんし、どんな作品でもスペックと属性と設定を明確にしないと楽しめないなんて最近の小説のラノベ的な親切設計に毒され過ぎなのかもしれません。
でも、だったら中途半端にコンプトンバーグ医師なんて名前ださなければいいのに。
ジェームズ・モリアーティ少年なんてださなければいいのに。
前半を推理劇風につくらなければいいのに…
最後の怪物も強敵かと思えばあっさり自滅するし、「間違えたぁ、薬、間違えたぁ」とか「靴の中のスプリング」とかギャグシーンなのかも知れませんが、特に面白くもなく…
池田有希子さん演じたナイチンゲールを再登場させるあたりファンサービスは感じるのですが、前作「髑髏城の花嫁」のキャラクターを再登場させるなら、原田樹里さん(「晴れたらいいね」主演)が演じるヘンリエッタを再登場させて欲しかった。
彼女がいるとメープルのキャラクターが引き立つので。
さらに、キャラクターという点では、作品冒頭に思わせぶりに出てきたチャールズ・ドジソンこと、ルイス・キャロルはどこに行ってしまったんでしょう…
思わせぶりに登場する隣家のメイド・アンの存在意義って何だったのでしょう…

…などといろいろ書いてしまいました。
お気を悪くされたファンの方がいらっしゃいましたらお詫びいたします。
「髑髏城の花嫁」が「月蝕島の魔物」より良かったので、さらに良くなることを期待しすぎたのかもしれません。
私だって、ニーダム&メープルのコンビに再度出会えたのは嬉しいんですよ。
それに演者の方々の演技には不満はありません。

それでは、その出演者について紹介します。
まず、主役のコンビであるエドモンド・ニーダムとその姪メープル・コンウェイは前2作から引き続き大内厚雄さんと石川由依さんのお二人が演じています。
大内さんは演劇集団キャラメルボックス所属の俳優さんで、本シリーズや2002年の「エドモンたちの島」(主演。「エド」モンド・ニーダムとは関係なし)、「獅子の城塞」などで青春アドベンチャーでもおなじみ。
石川由依さんも、恐らく2002年の「しゃばけ」(当時おそらく12歳!大内さんと青春アドベンチャー同期(笑))に初出演されて以降、「風神秘抄」、「タランの白鳥」など多くの作品に出演された青春アドベンチャーを代表するヒロインです。
常連といえば本作品の直前に放送された「風の向こうへ駆け抜けろ」で主演された朝倉あきさんと匹敵する重用ぶりですが、朝倉さんが主演が多いことと比較すると、石川さんは主演者の相方(ヒロイン役)が多いように感じます(「砂漠の歌姫」は例外)。
このような起用法の違いは時折みられるもので、1980年代から1990年代にかけて出演した俳優でいうと、同じナイーブな青年役でも、松田洋治さんが主役(「アルバイト探偵」、「アクアリウムの夜」、「オルガニスト」など)が多かったのに、宮川一朗太さんは主人公の相手役(「空色勾玉」、「ウィンブルドン」、「おいしいコーヒーのいれ方」など)ばかりでした。
それはともかく、メープルの魅力がこの作品を支えているのは紛れもない事実。
(「進撃の巨人」のミカサ役と比較すると)メープル役の声は石川さんの地声に近いそうです。
こんなかわいい地声、反則ですよね。

そのほか、若き日のモリアーティを演じる山田瑛瑠(える)さんは、2002年(うわ、大内さんと石川さんが青春アドベンチャーデビューした年だ…)生まれの14歳。
一緒に事件に臨むウィッチャー警部役の近江谷太朗さんは51歳ですので、年齢差は37歳もあるのになかなか堂々としています。

なお、この3部作は、演出と主演は全く同じですが、脚色はすべて違う方が担当しているのも特徴。
「月蝕島の魔物」の花房明香さん、「髑髏城の花嫁」の小林克彰さんに続いて本作品の脚色は矢内文章(やない・ぶんしょう)さん。
現在、「アトリエ・センターフォワード」で主に作・演出を担当されており、2017年1月特集オーディオドラマの「アシマの銃、セギルの草」ではオリジナルラジオドラマにも挑戦されていましたが、本作品では実は第4回に端役出演されているようです。
このようなカメオ出演は青春アドベンチャーでは丸尾聡さんがよくされていますが、番組最後の出演者紹介でさらっと「矢内文章」という言葉を聞くと、にやっとしてしまいますよね。

【田中芳樹原作の他の作品】
西風の戦記
月蝕島の魔物
髑髏城の花嫁
カルパチア綺想曲
夏の魔術
窓辺には夜の歌
バルト海の復讐


★本文内のリンクについて★
本ブログは、紹介したラジオドラマからスタートして、関連している作品、していない作品、原作などの様々な作品に興味を持っていただきたいと思い、本文の随所にリンクを設置しています。
特に外部リンクと明示してあるものと、アマゾンの画像以外は原則として本ブログ内へのリンクに限定しておりますので、安心してリンク先の記事をお楽しみください。
なお、アマゾンの画像リンクについてはこちらのご注意事項もご参照ください。


□スポンサーリンク□

テーマ:ラジオドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

ちいさなちいさな王様 原作:アクセル・ハッケ(青春アドベンチャー)

作品:ちいさなちいさな王様
番組:青春アドベンチャー
格付:A+
分類:幻想(海外)
初出:2017年1月9日~1月13日(全5回)
原作:アクセル・ハッケ
脚色:西村有加
演出:末永創
主演:本田博太郎

ミュンヘンで公務員をしている“僕”が家に帰ると、お菓子のグミベアの袋がガサガサと音を立てていた。
ネズミか、と思って怖々と手に取ってみると…
「無礼もの!! 頭が高い! 我こそは“十二月王二世”(じゅうにがつおう・にせい) である! 頭が高い! 控えおろう~」
そこにいたのは人差し指ほどの人間。
でっぷりした身体に赤いマント、頭に王冠。
それは、ちいさなちいさな王様だったのだ。

――――――――――――――――――――――――――

本作品「ちいさなちいさな王様」はドイツの作家アクセル・ハッケによるファンタジー小説をラジオドラマ化した作品です。
「日常生活の中に、ある日突然、小さな人間が出現する」という筋立てを見ると、2014年の青春アドベンチャー「びりっかすの神さま」を思い出すまでもなく、童話または少年向けの児童文学作品を想像するかと思います。
しかし本作品は、そのファンタジックなシチュエーションにも関わらず、寓意をふんだんに含んだ内容からか大人に受けている作品のようです。

例えば“王様”の生まれたところでは、生まれた時が一番大きく、歳を取るにつれ小さくなるとのこと。
それはおかしいという“僕”に対して、“王様”は「小さくなるということは自由になること」と主張します。
逆に人間は成長につれ身体は大きくなるが、同時に想像の世界はどんどん小さくなっていく、人間こそが成長につれ小さくなっていくのだ、と。 
“王様”と生活するなかで、“僕”は様々なことを今までと違った視点からみることができるようになっていきます。
夢とはどういうものなのか、通い慣れたいつもの道が持つ魅力、生まれること死ぬこと…
本作品は、子どもが聞けば単なるちょっと不思議な話に過ぎないのでしょうが、ある程度人生経験を経た大人が聴くと色々と「刺さる」言葉がある作品のようです。
ただネットの書評を見ていると書かれている内容はバラバラで、「刺さる部分」や「刺さり方」は人それぞれのようです。
ある程度分かりやすいメッセージはあるのですが、どちらかというとそれを明確に押しつけてくると言うよりは、ふわっとしたストーリーをそれぞれが自分の人生経験に応じて勝手に深読みしていくような、懐の深い作品であると思います。
ところで、「刺さる」といえば、本ラジオドラマで王様が“僕”を杖でついたときのSEは「ブスッ」という、ほとんどナイフで刺したようなSE。
とても痛そうです…

さて、本作は全5回の小編で、意外な展開があるわけではなく、概ね予想通りの結末へと向かっていきます。
改めて考えると、“僕”が早くに父を亡くしているという設定は、“王様”を父親と重ねるための伏線だったのかなとか、中盤で命がどこから来るのかなどという話が出るのは終盤判明すること(ネタバレ防止)の伏線だったのかな、など思うこともありますが、それ自体深読みに過ぎないようにも思える、落ち着いた作品です。
個人的には「びりっかすの神さま」のような意外な展開で外連味のある作品の方が好きですか、名古屋局らしい大人向けの作品で、これはこれで評価する方も多いと思います。
近年の名古屋局の「5話もの」は、「機械仕掛けの愛」(2014年)、「カモメに飛ぶことを教えた猫」(2015年)など、傑作とまではいえないとしても良作が多いように感じます。

さて、本作の出演者は7名ほどいるのですが、主要なキャストは3名のみ。
“王様”こと“十二月王二世”役が俳優の本田博太郎さん、“僕”役は俳優の高橋光臣さん、そして紅一点の“ミス・ブレッツェル”役が声優の牧口真幸(まきぐち・まゆき)さんです。
本田さんは、みなさんご存知のとおり、日本を代表する名バイプレーヤーとして、舞台、映画、TVなどに多く出演されていますが、本作品では主演。
恐らく青春アドベンチャー初主演だと思いますが、いうまでもなく堂々たる“王様”ぶりです。
高橋光臣さんは現在34歳。
2006年の「轟轟戦隊ボウケンジャー」の明石暁(ボウケンレッド)役がTVドラマ初主演でした。
青春アドベンチャーでは2009年の「ふたつの剣」で主要キャストである野間恒を演じています。
また、牧口真幸さんは主要3キャストの中では唯一の声優さんで、名古屋局らしく愛知県出身の方です。
牧口さんの演じる“ミス・ブレッツェル”は序盤は完全に「ツン」なのですが、終盤、見事に「デレ」ます。
デレたあとのかわいさはなかなかのものです。

ところで、みなさん「グミベア」ってご存知でしたか?
ドイツと北米ではお菓子のグミは熊の形をしているのが一般的なのだそうです。
知らなかった。
ちょっとしたトリビアですね。



★本文内のリンクについて★
本ブログは、紹介したラジオドラマからスタートして、関連している作品、していない作品、原作などの様々な作品に興味を持っていただきたいと思い、本文の随所にリンクを設置しています。
特に外部リンクと明示してあるものと、アマゾンの画像以外は原則として本ブログ内へのリンクに限定しておりますので、安心してリンク先の記事をお楽しみください。
なお、アマゾンの画像リンクについてはこちらのご注意事項もご参照ください。


□スポンサーリンク□

テーマ:ラジオドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

次のページ

FC2Ad