青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

不思議の国のヒロコの不思議 原作:谷山浩子(FMシアター)

作品:不思議の国のヒロコの不思議
番組:FMシアター
格付:B+
分類:幻想(日本)
初出:1987年1月17日(全1回)
原作:谷山浩子(原作・音楽)
脚色:湯本香樹実(脚色・構成)
演出:松本順
主演:三田寛子

どうしてもあと1曲。あと1曲が出来ない!
新しいLPの録音まで、もう時間がない。
曲が出来なければ折角集まってもらったバンドメンバーと練習も出来ない。
もう逃げ出したい!
あれ?あんなところに大きな木の扉が?
あんなもの、あったかしら?
なんでもいい。
あの扉から逃げ出してしまおう。
扉の先にいたのは金髪の少女。
少女はこう言ったの。
「あなたは標本よ、あなたは死んで剥製になったの。ここは地球博物館だから。」

――――――――――――――――――――――――――

シンガーソングライター谷山浩子さんの不思議な物語を原作とするラジオドラマです。
谷山浩子さんの原作作品は、NHK-FMでは後年の1990年代に「サウンド夢工房」などで、多く作品がラジオドラマ化されることになりますが、その一番最初の作品が、この「不思議の国のヒロコの不思議」です。

一番最初の作品ではありますが、後の谷山さん原作ラジオドラマの典型的な要素がすでに盛り込まれています。
それは、①主人公が谷山さんの分身ともいえる若い女性であること、②何らかのトラブルに巻き込まれて現実世界とは全く別の不思議な世界に迷い込むという「不思議の国のアリス」的な展開であること、の2点です。
そういえば、「不思議の国のヒロコの不思議」という本作品のタイトルは、この二つの要素を見事に表していますね。
特に最初のラジオドラマである本作品と、次の作品である「サヨナラおもちゃ箱」の2作品は、これらの要素に加えて、③最終的に現実世界に向き合って現実世界をより良く生きるための糧とする、という共通要素も加わります。
しかし、新しい作品になるにつれ、これらの要素は少しずつ減っていきます。
例えば、(今のところ)最後の谷山浩子原作作品になる「悲しみの時計少女」(1992年初出)でいうと、①については男性が主人公、②については放浪するのは不思議な要素はあるがあくまで現実世界、③については生きていく役に立つという類いの話しではない、といった具合です。

なお、本作品の原作は「猫森集会」のようです。
実は「サウンド夢工房」時代の「ネムコとポトトと白い子馬」も、同じ猫森集会を原作としています。
ただ、両作品は「地球博物館」や「エイエン物語」といった共通するエピソードを使用してはいるのですが、全体のつくり、例えば主人公の名前や立場、ひとつながりのストーリーか1話完結のオムニバス形式か、などの点でかなり違う作品になっています。
amazonの索引紹介を見ると「ネムコとポトトと白い子馬」の方が原作に近いように感じます。
「不思議の国のヒロコの不思議」は1回60分の短い作品ですので、こちらでできなかった内容を捲土重来を期して、15分×10回のやや放送時間が長い「ネムコとポトトと白い子馬」で実現したのかもしれません(ディレクターは別の方ですが)。

さて、谷山浩子さん原作のラジオドラマといえば、谷山さんが原作のみならず、音楽や出演でもかかわることが多いのが特徴です。
本作品でもご本人の出演はありませんが、多くの歌を提供しています。
具体的には以下のとおりです。

1.「草の仮面」(オープニングテーマ曲で谷山浩子さんが歌唱。中盤で男性が歌うバージョンも流れる)
2.「時の回廊」(歌っているのは主演の三田寛子さん)
3.「さかなの言葉」(谷山浩子さんが歌唱)
4.「逃げる」(谷山浩子さんが歌唱)
5.「お人形畑」(谷山浩子さんが歌唱)
6.「MOON SONG」(エンディングテーマ曲で歌は三田寛子さん)

これらの曲はアルバム「透明なサーカス」に収録されているのですが、このアルバムが発売されたのは1987年9月。
すなわちこのラジオドラマの放送後であり、既存の楽曲をラジオドラマで使ったのではなく、このラジオドラマ用に作曲した曲を後でアルバムに収録したようです。
何と手の込んだラジオドラマなのでしょうか。

さてさて、本作品で主役の“ヒロコ”を演じたのは、今では、歌舞伎役者・八代目中村芝翫(なかむら・しかん。どちらかというと「橋之助」のイメージが強い人が多いかも)の奥さんとして、すっかり梨園の蔭の権力者(?)としての地位を確率しつつある三田寛子さん。
当時は女優というよりアイドルに近かった印象があります。
ちなみに(当時の)橋之助さんと結婚するのは本作品出演の約4年後ということになります。
当時、三田さんは舌足らずなしゃべり方をするという印象があったのですが、このラジオドラマの発声を聴く限り、意外と活舌ははっきり。
演技全般にも違和感がなく、はっきり言ってなかなかうまいです。
本作品では歌も披露しており、大車輪の活躍。
天然ボケはあくまで売るためのキャラだったのでしょうか?
そういえば本作品の「ヒロコ」は谷山浩子さんの分身だと決めつけていたのですが、改めて考えると主演の三田寛子さんも「ヒロコ」。
なかなか考えられた配役です。

ヒロコ以外では、ヒロコの「内にこもりたい心」を象徴すると思われる「アンテ」を演じた島本須美さん(ナウシカ音無響子役などで有名)が重要キャスト。
そのほかや、高間智子さん、伊沢弘さん、鷲尾真知子さん、金内喜久夫さんのほか、端役に近い千葉繁さんや高木均さんまでなかなか凝ったメンツです。


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金魚姫 原作:荻原浩(青春アドベンチャー)

作品:金魚姫
番組:青春アドベンチャー
格付:AA-
分類:幻想(日本)
初出:2017年7月24日~8月4日(全10回)
原作:荻原浩
脚色:原田裕文
演出:佐々木正之
主演:窪塚俊介

ダメだ、眠れない…
恋人との収入格差を縮めるために転職した仏壇の販売会社は予想以上にストレスフルな環境だった。
しかも、彼女には逃げられ、結局、残ったのはストレスから来る不眠症だけ。
もはや睡眠導入剤が欠かせない。
転職しようにも転職活動をする時間も気力もない。
その日もようやく起き出したらすでに夕方だった。
だるくて仕方がないが、近所の祭り囃子に誘われて夕食は屋台で調達することにした。
そして出向いた祭りの屋台で彼はその金魚と出会った。
金魚すくいの水槽の中で水草に隠れていた一匹のリュウキン。
連れて帰ったそのリュウキンが家で女性に変化するとはそのとき彼は想像だにしていなかった。

――――――――――――――――――――――――――

本ラジオドラマ「金魚姫」は、2016年に「海の見える理髪店」で第155回の直木三十五賞(いわゆる「直木賞」)を受賞した荻原浩さんの小説を原作とするラジオドラマです。
青春アドベンチャーでは2007年にすでに「僕たちの戦争」、「押入れのちよ」の荻原さん原作の2作品をラジオドラマ化していますので、いわば「凱旋帰国」の趣があります。

さて、内容を紹介しますと、2007年にラジオドラマ化されている2作品と比較するならば、どちらかといえば本作品は「押入れのちよ」寄りの作品です。
すなわち、本作品も「押入れのちよ」も、一種の「怪異」が中心にある作品なのですが、怪異といってもホラー作品に分類できるほど、怖がらせること自体を目的の作品ではありません。
何せ本作品のヒロインは人の姿をした金魚(あるいは金魚になった人間)で、しかも絶世の美女。
実は、本作品でも序盤にはホラーチックな音響効果が施されたセリフもあったりするのですが、すぐに有名CMネタ(NHKだからか微妙に名前が変えてあるが元ネタは明らか)のセリフが飛び出したりして意外と明るい展開が続きます。
とはいえ、このまま明るい展開が続くのかというと…
本作品、オープニングテーマ曲は少年少女向きのタイムスリップものででも使われそうな明るい曲なのですが、エンディングテーマは打って変わった静謐でダウナー系の曲。
このテーマ曲の2面性は作品自体の2面性を象徴しているようで、恨みや心残りといった人間心理の負賦の側面を底流に孕みながらストーリーは進行していきます。
そもそも、主人公が仏壇・仏具を扱う会社に務めているということ自体が、単なるブラック企業ぶりを象徴しているだけではなく、作品展開の方向性を暗示している…というか、実際、作劇上の重要要素になっています。
なかなか一筋縄ではいかない作品です。
個人的には、後半に解き明かされるリュウの目的(本人も忘れている)が全く予想外で虚を突かれたのも印象的です。
ただ、謎解き結果が少し唐突な印象を受けたのも確かで、もう少し伏線があるともっとよかったように感じました(どこか前半で主人公の「名字」が提示されていましたっけ?)。

さて、出演者に話しを移しますと、まず主役の江沢潤(えざわ・じゅん)を演じているのは俳優の窪塚俊介さんです。
同じ俳優の窪塚洋介さんの弟さんとして有名ですが、慶應義塾大学卒業、劇団青年座所属で、多くの舞台にも出演されており、とても地に足の付いた活動をされている方のようです。
本作品は、江澤潤のモノローグが非常に多くを重要な作品であり、窪塚さんの安定した演技が作品をとても聞きやすいものにしていると思います。

また、人間になるとなぜか中国風の赤い衣装をまとっている(なぜかは実は作品冒頭から暗示されているのですが)美女・リュウを演じるのは女優の梅舟惟永(うめふね・ありえい)さん。
こちらは早稲田大学在学中に演劇サークルを始めたバリバリの舞台女優さん。
2015年にFMシアターで放送された主演作「夜市」もホラー系の作品ですので、すっかりこの手の作品の常連になりつつあります。
ちなみに梅舟さんの特技は中国語(北京語)だそうですので、それも本作品への起用理由なのだと思います。
また、第2ともヒロインいえる潤の元恋人・亜結(あゆ)は、「93番目のキミ」の好演が印象的な杉本有美さんが演じています。
なんと「幻想郵便局」に続き、○○役です。
○○はネタバレを防ぐための伏せ字です、ご容赦を。
でも「幻想郵便局」を出した時点でバレバレかな。

さて、大人向けのファンタジーとしてなかなかの良作だった本作品。
大人向けといっても、例のシーンがあったから言っているのではありません。
殺伐とした現実社会に立脚していながら、あくまで叙情的な雰囲気が大人向きだろうと思います。
(とはいえTV内の音声という位置づけであるにしろえ、あんなにちゃんとanan言うシーンが入った青春アドベンチャー作品がかつてあったでしょうかね)。


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