青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

エヴリシング・フロウズ 原作:津村記久子(青春アドベンチャー)

作品:エヴリシング・フロウズ
番組:青春アドベンチャー
格付:A+
分類:少年
初出:2017年6月26日~7月7日(全10回)
原作:津村記久子
脚色:蔭岡翔
音楽:内山修作
演出:小島史敬
主演:前田旺志郎

ヤマダヒロシは大阪市大正区に住む中学3年生。
両親は離婚していて、オカンとふたり暮らし。
絵を描くことだけは結構、自信があったけど、それも昨年の写生大会で、クラスの地味目な女子に完敗してからすっかりやる気がなくなってしまった。
やたらと高圧的な優等生、無口で悪い噂のあるでかい男、なぜか威圧してくる女子、そして例の絵のうまい女の子。
新しいクラスも苦手な奴ばっかりだ。
こんなことで、1年間を乗り切れるのだろうか。
自分は、運河と海に囲まれたこの埋め立て地から一生抜け出せないのではないだろうか。

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本作品「エヴリシング・フロウズ」は、2009年「ポトスライスの舟」で、純文学の新人賞である第140回芥川賞を受賞された津村記久子さん原作のラジオドラマです。
津村さんの作品は文芸色の強いFMシアターでは2014年に「婚礼、葬礼、その他」が取り上げられていますが、エンターテインメント色の強い青春アドベンチャーでは、直木賞作家の作品を採用することが多く(直木賞受賞作自体を取り上げることも間々ある)、津村さんの作品を取り上げるのは初めてです。
とはいえ芥川賞の受賞作家を取り上げることもないことはなく、津村さんは、2016年に「雨にもまけず粗茶一服」で松村栄子さんを取り上げたのに続いて2年連続での芥川賞作家の起用になります。

さて、純文学の作家さんの作品らしく、本作品はまさに少年の日常を取り上げた作品です。
正直、私はこういった日常生活を描いたラジオドラマが苦手です。
「化学調味料」でもいいのでガツンとスパイスが効いた作品を聴きたいんですよ。
その点、本作品の主人公であるヒロシは平凡な中学生で、これといって特別な出来事は起きない。
あえて言えば、母親の再婚騒動くらい………といいたいところですが、実は結構、いろいろと起きます(笑)。
まず第1週(前半)は何だか謎めいた口下手な同級生・矢澤を巡る話が中心。
付き合っている彼女を妊娠させて捨てたという噂のある矢澤ですが、ヒロシにはどうしても矢澤がそんな人間には見えない。
かといって積極的に矢澤に真相を尋ねたり、噂を打ち消すために自主的に行動を始めるような行動力を持ち合わせていないのがヒロシの特徴。
うじうじとしているヒロシの前でついに「事件」が起きます。
正直、序盤のオカンの再婚騒動のあたりは、辟易しながら聞いていましたが、話の中心が矢澤に移ってからは、「学校もの」の範疇ながらも、それなりにスリリング。
そういえば、本作品の演出の小島史敬さんは「バスパニック」、「バードケージ 一億円を使い切れ!」、「ヤッさん」など、うじうじした青少年を描くのがうまいんだよなあ。
それに、近年の青春アドベンチャーでは、「屋上デモクラシー」、「アグリーガール」や「逢沢りく」など、「学校もの」に佳作が多いことも思い出しました。
そして、前半最後に起こるクラスメートの女生徒・大土居に金属バットで襲われる事件を経て、その後は大土井の家庭の問題へのえ展開。
後半は幼児虐待やDVがテーマで、まるで「FMシアター」(NHK-FMで土曜日に放送してる単発ドラマ枠で現在的な問題を圧逢った地味な作品が多い)のようですが、主人公たちがまだ人生の先が長い中学生であることが原因か、あるいは最後の場面がコテコテトいっていいほどの「卒業」を象徴するシーンだったからか、FMシアターの作品とはずいぶん違った爽やかな視聴後感でした。
やっぱりいいよね、中学生。
まあこれからいろいろ「漂って」いかないといけなんだけどさ。

さて、本作品の主役の「ヒロシ」を演じるのは、お笑いコンビ「まえだまえだ」のボケ担当、前田旺志郎さんです。
そう若干7歳の時にお笑い番組「エンタの神様」に初登場した、あの「まえだまえだ」の「弟の方」です。
現在は16歳。
しかし、弱冠16歳の、しかも「お笑いの人」とは思えない、この安定した演技は何だ?
母親(オカン)役は、女優としてはベテランといってよい元ファッションモデルの川原亜矢子さん(青春アドベンチャーでは「プリンセス・トヨトミ」にご出演)なのですが、ほとんど対等に演じています。
それもそのはずで、前田さんは3歳のころから松竹芸能のタレントスクールに通い、「エンタの神様」出演前から子役としてCMやドラマなどに出演されていたとか。
なるほど納得です。
その他、実はある世界でかなりの有名人物である矢澤(演:松島海斗さん)、ヒロシが淡い好意を寄せるソフトボール部の野末(演:守殿愛生さん)、乱暴でがさつと思いきやいろいろな事情を抱える大土居(演:大出菜々子さん)、万事控えめだけど必要な場面ではしっかり主張する増田(演:古妻朋瑛さん)、進学した私立中学が馴染めないながら逞しく今後のことを考えている古野(演:中瀬優乃さん)と、準主役5人組は全員中学生(原作では「フジワラ」も主要登場人物のようですが、ラジオドラマでは出番は少ない)。
そのため、演じている役者の皆様も、あまり過剰な演技で盛り上げることはできないと思うのですが、各人のキャラクターがエキセントリックにならない範囲で個性的であること、物語の中でそれぞれの役割がきちんと割り振られているなどから、自然と聞きやすい作品になっていると感じました。
ちなみに、ヒロシを含めた6人組のほとんどが関西出身で、比較的実年齢に近いのは、さすがにNHKらしいところです(年齢は違いますが川原亜矢子さんも大阪出身)。

○ 田旺志郎(まえだ・おうしろう)さん : 大阪府出身、16歳
○ 島海斗(まつしま・かいと)さん : 東京都、17歳
○ 殿愛生(もりどの・まなせ)さん : 大阪府出身、14歳
○ 出菜々子(おおでななこ)さん : 京都府出身、17歳
○ 古妻朋瑛(こつま・ともえ)さん : 不明(テアトルアカデミー大阪の所属なので恐らく関西)、16歳
○ 瀬優乃(なかせ・ゆうな)さん : 大阪府出身、16歳

しかしこの記事を作成するために検索してみると、女の子、みんなかわいいですな。

ちなみに、優しい音楽で作品の雰囲気づくりに多大な貢献をしている内山修作さんも大阪出身。
…って、内山修作さんって、あのゾンビゲームの名作「バイオハザード」の作曲家の内山修作さん
全然雰囲気の違う音楽やん。

何はともあれ、正直あまり期待していなかったのですが、意外と(?)おすすめの作品です。


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学問ノススメ-挫折編 原作:清水義範(サウンド夢工房)

作品:学問ノススメ-挫折編
番組:サウンド夢工房
格付:A+
分類:少年
初出:1990年4月2日~4月13日(全10回)
原作:清水義範
脚色:津川泉
演出:大沼悠哉
主演:松下一矢

「いいかぁ! これからの1年だ! この1年の過ごし方で、胸を張って生きていけるようになるか、敗北感を持って生きていかなきゃならんのかが決まる。お前等、こんなにやりがいがある時はない!」
壇上で予備校の教師が、がなりたてている。
何でこんなことになってしまったんだろう。
そう、キビオカ大学の入学試験で、あんな問題さえ出でなければ、今頃は楽しいキャンパスライフを満喫していたはずなのだ。
青春真っ盛りの時期なのに、1年間も浪人生なんていう憂鬱な立場で過ごさなければならないなんて。

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清水義範さんは、1970年代から主にジュブナイル系のSFで作家生活をスタートした方です。
しかし、1980年代後半以降はパロディ小説、推理小説、青春小説などに活躍の場を広げ、「金鯱の夢」(歴史小説?)、「虚構市立不条理中学校」(不条理コメディ)、「柏木誠治の生活」(日常ユーモア小説)の3作品では直木賞の候補にもなりました。
NHK-FMのエンタメ系・帯ドラマ枠でも、本作品を含めて5作品がラジオドラマ化されています。
この5作品を時系列的に振り返ると、「怪事件が多すぎる」・「怪事件が多すぎるⅡ」(ファンタジー風ミステリー、アドベンチャーロード1987年)、「学問ノススメ-挫折編」(青春もの、本作品1990年)、「尾張春風伝」(歴史もの、青春アドベンチャー2007年)、「バードケージ 一億円を使い切れ!」(少年サスペンス、青春アドベンチャー2008年)と、清水さんの文筆経歴を網羅するような幅の広いジャンルです。

さて、上記のとおり、本作品「学問ノススメ-挫折編」は清水さんがジュブナイルから一般への活動の幅を広げた時期の作品です。
そのため、本作品にはSF要素や超常現象は一切なし。
浪人生日常を、あくまで浪人生の目線から、面白おかしく切り取っていきます。
といっても主人公・津吹淳一(つぶき・じゅんいち)は別段面白いことをしている意識はなく、浪人生のトホホな日常をモノローグを交えながら淡々と表現していきます。
とはいえ淳一の生活は灰色一色ではありません。
後半はいわば「恋愛編」というべき内容になっています。
「浪人生なのに恋愛編?いいのか?」
というご意見もあろうかと思います。
良いわけありません。
終盤はなかなかの修羅場です。
淳一君、それなりの屑人間な訳ですが、まあ聞いていると「仕方がないかな」とも思える流れにはなっています。
その辺は作劇上のうまさだと思います。
淳一を演じているのは俳優の松下一矢さんなのですが、松下さんは本作品の3か月前に放送された「最後の惑星」でも主役に準じる役を演じていらっしゃいます。
「最後の惑星」では主人公レーマンの息子役でいかにも子供風な演技だったのですが、本作品では立派な浪人生風。
調べてみると本作放送当時21歳でしたので、今回の淳一の方が実年齢に近く、やりやす役だったのではないかと思います。

また、この浪人生活を描いた作品がどことなく楽しげになっているのは、やはりキャラの立った浪人仲間の存在。
いかめしい名前とは正反対のおかま言葉で話す大道寺裕二や、気弱で「サド・ロリ」という強烈な趣味を持つ吉沢康伸がその典型なのですが、このふたりどうも小川裕之さんという一人の方が演じ分けているようです。
そして強烈と言えばやはり印象的なのは千葉繁さん。
千葉さんのメインの役は高校時代からの一番の友人・片山隆博なのですが、こちらは「アルバイト探偵」のナレーションや「これは王国のかぎ」の砂漠の行者役に近い抑えた演技。
むしろ予備校講師役の方で、TVアニメ「北斗の拳」の予告編を彷彿とさせる名調子(迷調子?)を朗々と披露してくれます。
本作品、現代の受験勉強、進学制度についての辛辣な目線が一つの味になっているのですが、それを戯画的に際立だせるために千葉さんの演技がとてもよくあっています。
でも、揶揄の対象とするために戯画的に描かれているはずの予備校講師の言葉に、一定の説得力を感じてしまうあたり、聴いていて我ながら年を取ったものだと思いました…

さて、本作品、アドベンチャーロードの後を受けて始まった新番組「サウンド夢工房」の一番最初の作品でした。
「サウンド夢工房」は前番組の「アドベンチャーロード」、後番組の「青春アドベンチャー」と違い、番組自体のテーマ曲(丸山みゆきさんの「涙ながすその前に」)があるという特徴がありました。
このテーマ曲を冒頭と最後に流すため、どうしてもドラマ自体の時間は短くなってしまっています。
本作品の場合、本編終了後に毎回、「学問ノススメ番外編 格言ノススメ」のミニコーナーがあるため、さらにドラマパートが短くなっています。
「格言ノススメ」で述べられた各界の格言は以下のとおりです。

第1回:「学問は尻から抜ける蛍かな」与謝蕪村
第2回:「お天道様には勝てない」はるまきとめさく
(↑出典がわかりません。もしかしてギャグ?ご存知の方はご教示を。)
第3回:「毎朝必ず良い考えをもって始めなさい。心配やため息で始めることだたけはしないことです。そうすればあなたは一日中、暗雲を突き破る日光をわずかなりとも持てるでしょう」ヒルティー
第4回:「問うていわく、苦を去って楽しみを求むる道はいかん。答えて云う、学問なり。」中江藤樹
第5回:「教育とは点数、卒業証書、就職、月給である。」エル・カウフマン
第6回:「我我の自己 欺瞞 ( ぎまん ) は一たび恋愛に陥ったが最後、最も完全に行われるのである。」(芥川龍之介)

第7回:「ラブなんていうもこはそんなに大騒ぎするようなもんではないんだね。つまり飯を食うようなもんさ。」島崎藤村
第8回:「辛いことをやるのも一生、楽なことをやるのも一生」林芙美子
第9回:「とにかくね、生きているのだからインチキをやっているのに違いないのさ。」太宰治
第10回:「闇があるから光がある。そして闇から出てきた人こそ、一番本当に光の有難さが分かるんだ。」 小林多喜二
※第10回は他にも世阿弥、夏目漱石、三宅雪嶺の格言を紹介しています。

なお、この「学問ノススメ-挫折編」、原作は「奮闘編」、「自立編」と続いたようですが、ラジオドラマはこの「挫折編」まで。
ちょっと残念です。
また、2007年にTV朝日系列でテレビドラマ化もされています。
「土曜ナイトドラマ」枠全8回で津吹淳一役は俳優の中尾明慶さんだったようです。


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