青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界

NHK-FMのオーディオドラマ「青春アドベンチャー」の紹介ブログです。前身番組の「サウンド夢工房」・「アドベンチャーロード」等も含みます。一応「格付」するなど評価・評論風のことも書いていますが、堅い話はともかく雑談・脱線ありありで、オーディオドラマを中心とした楽しい世界を紹介します。リンクフリーです。

ペテルブルグから来た男 原作:ケン・フォレット(FMアドベンチャー)

作品:ペテルブルグから来た男
番組:FMアドベンチャー
格付:AA
分類:サスペンス
初出:1984年11月21日~11月30日(全10回)
原作:ケン・フォレット
脚色:田辺まもる
演出:伊藤豊英、松本順
主演:森本レオ

1914年晩秋、ロンドン郊外。
大英帝国とロシア帝国が手を結ぼうとしている。
このままでは世界大戦が始まってしまう。
両国を牛耳っている腐った貴族たちのせいで、何百万人ものロシアの無辜の人民が犠牲になる。
そんなことは何としても避けなければならない。
大丈夫。作戦は順調だ。
御者に化けて乗っ取ったこの馬車には、交渉の英国代表であるウォールデン伯爵と、ロシア帝国の特使アレクセイ・オルロフ公爵が乗っている。
英国領内でオルロフ公爵が死ねば、交渉はもちろん決裂だ。
…頃合いだ。馬車を止めよう。
そして力いっぱいに馬車の扉を引き開けて、この銃弾を撃ち込めばすべてが終わる!
「誰よ!何するの!!」
!!!
なぜだ、なぜ彼女がそこにいるのだ!

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このラジオドラマ「ペテルブルグから来た男」は色々な意味で予想を裏切られた作品でした。
本作品が放送された「FMアドベンチャー」は1984年から1985年にかけて1年間だけ放送された番組であり、私は本作品を、最近、録音で初めて聞くことができました。
そのため先に聴いていた、似た名前の作品「ブラジルから来た少年」(原作:アイラ・レヴィン)の印象が強く、なぜか勝手に第2次世界大戦以降の時代を舞台にしたスパイものだと思い込んでしました。
そのため、作品の冒頭から「公爵」だの「伯爵」だのが登場する前世紀的な雰囲気にちょっと違和感を感じてしまいました。
ゼンダ城の虜」や「紅はこべ」、「皇帝の密使」などがそうなのですが、国際謀略ものに貴族が登場すると、ストーリーに妙なロマンチズムが混在してしまうために、あまり好きになれないんですよね。
やっぱり、民主国家どおしが「民衆のため」という同じ正義の名のもとに、汚い暴力に手を染め殺しあうという、殺伐としたやるせなさこそが謀略ものの魅力だと思うのです。
その点ではやはりジャック・ヒギンズのような、第2次大戦期かそれ以降を舞台とした作品の方が好みなのです。
特に本作品では時間の都合からか、英国がなぜロシアと手を結ぶのかの説明を省略しており、特権階級対共産主義者という安易な対比になっているのがちょっと残念です。
ただ、共産主義者が跋扈し始めた第1次世界大戦前という端境期を舞台としていること、権力者側に究極の現実主義者、ウインストン・チャーチルがいることで一定の「殺伐さ」は出ていると思います。

また、他に予想を裏切られた点といえば、「ペテルブルグから来た男」は誰かということ。
聴き始めた当初は、ロシアからの特使アレクセイ・オルロフ公爵かと思わせるのですが、実は潜伏先のジュネーブからやってくる主人公のテロリスト、フェリックス・クシェンスキーこそが「ペテルブルグから来た男」です。
なぜ「ペテルブルグから」なのか。
それは本作品における愛憎劇の要素の核心部分をなす部分ですので、詳しくは読んでの(聴いての)お楽しみに取っておきます。
なお、オルロフ公爵は序盤こそ出番が多いのですが、徐々に存在感が薄まり、中盤以降はかなり残念な扱いになってしまいます。
さらに、この物語のヒロインも当初は、ウォールデン伯爵令嬢で快活なシャーロットかと思わせるのですが、実はシャーロットは第2ヒロイン的な位置づけで、真のヒロインは彼女の母親でウォールデン伯爵夫人のリュディアです。
本作品は国際謀略ものであると同時に、このフェリックスとウォールデン伯爵一家との愛憎劇でもあることが味噌なのです。
後者の要素が、本作品を単なる謀略モノではなく人間ドラマへと昇華させているわけではありますが、冒頭に書いたとおりもっと殺伐としていて欲しいものではあります。
ただ聴き終えてみればそれも作品に深みを与える要素としてアリだったと思います。

さて、謀略の顛末(=フェリックスのテロ行為により戦争を回避できるのか)はすでに歴史が証明してしまっています。
また、愛憎劇の結末がどうなるかを書くのは野暮というものでしょう。
そこで、今回も登場人物とその演者を通じて作品を紹介したいと思います。
まず、主人公のフェリックスを演じたのは俳優の森本レオさん。
アドベンチャーロード時代の名作「摩天楼の身代金」(もう一度通しで聞きたいなあ)でも主演されていましたが、あの渋い声でフェリックスのような、小心でいじけた中年男性を演じさせたら天下一品ですね。
だいたい、たくさん人を殺しておいて「俺は生きたいのだ!」もないものです。
そういえばテロリストが主人公の作品って、アドベンチャーロード時代の「ジグが来る」と本作品くらいでしょうか。
聴いていてふと思ったのが、やはりアドベンチャーロード時代に放送された「暗殺のソロ」(原作:ジャック・ヒギンズ)との対比。
「暗殺のソロ」の主人公がテロリストを追う男であるのに対して、本作品の主人公は追われるテロリスト。
「暗殺のソロ」は「子供が事件に巻き込まれてしまった親」の話であるのに対して、本作品は「子供を事件に巻き込む親」の話し。
対照的です。
とはいえ「暗殺のソロ」のモーガン大佐もやっていることはほぼテロリストと変わりないのですが…
それにしても、テロリストがリアルになりすぎてしまった今のご時世ではなかなかテロリストを主人公にするのは難しい、本作品は一昔前ならでは…とも思ったのですが、本作品が発表された20〜30年前だってIRAやモサドによるテロ行為は普通にありました。
フィクションの世界に変なタブーを持ち込むのは良くないですね。
是非、新しいテロリストものをラジオドラマ化して欲しいものです。

一方の守備側の主役ともいえるのが、戸浦六宏さん演じるウォールデン伯爵。
いけすかない特権階級の貴族ですが、オルロフ公爵が最初に襲撃された際にはわが身を投げ出して爆弾からオルロフ公爵を守る(結果は不発で命拾い)など、わが身の安全を顧みず、とっさになすべき行動をすることができる、ノブレス・オブリージュを弁えた人物であることがうかがえます。
考えてみれば、少なくとも家族関係では彼は一方的な被害者であり、途中狼狽するシーンなどは同情を禁じえません。
クライマックスの火災のシーンでの行動もなかなか見事だと思います。
それにしても戸浦さんって1993年には亡くなられていたんですね。
もっと長くまで活躍されていた印象でしたが…

女性陣ではリュディアとシャーロットの母子を演じたのが、三田和代さんと斉藤とも子さん。
三田さんは「暗殺のソロ」や「霧隠れ雲隠れ」など、斉藤さんはFMシアターの「夕凪の街 桜の国」に出演されていますね。

その他、実在の名宰相チャーチルを演じたのは「奥様は魔女」のナレーションで有名な中村正さん。
中村さんは「皇帝の密使」で担当したナレーションが印象的なのですが、本作品ではナレーションをしておらず、本作品のナレーションはNHKアナウンサーの和田篤さんがされています。
和田さんのナレーションといえば、個人的に最も印象深いのはNHK新大型時代劇(TVドラマ)の「真田太平記」。
1985年の「真田太平記」で真田幸村を演じた草刈正雄さんが、昨年2016年の「真田丸」では父・真田昌幸を演じたことを考えると、この「ペテルブルグから来た男」の古さもわかろうというものです…ってほとんど本作品には関係ない脱線ですね。
すみません。

【伊藤豊英演出の他の作品】
多くの冒険ものの演出を手掛けられた伊藤豊英さんの演出作品の記事一覧は別の記事にまとめました。
詳しくはこちらをご参照ください。



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オリガ・モリソヴナの反語法 原作:米原万里(青春アドベンチャー)

作品:オリガ・モリソヴナの反語法
番組:青春アドベンチャー
格付:AAA-
分類:サスペンス
初出:2016年7月18日~8月5日(全15回)
原作:米原万里
脚色:丸尾聡
演出:真銅健嗣
主演:西山水木

オリガ・モルソヴナと出会ったのは、1960年代のチャコの首都プラハにあったソビエト学校でのこと。
私、弘世志摩はこの学校に通う小学生だった。
オリガは、老齢ながらダンス教師として卓越した技術を持つと評判だった。
しかしそれ以上に彼女を有名にしていたのは、ただでさえ罵り言葉の宝庫と言われるロシア語を駆使し、罵詈雑言を浴びせかける天才だったこと。
その最も特徴的な表現方法は反語法。
彼女にかかると「美の極致!」という言葉さえも、圧倒的な皮肉へと変わるのだ。
しかし、オリガの過去に何か謎のようなものが見え隠れることが小学生であった私にも分かった。
そして1992年。
大人になった私はモスクワへと飛ぶ。
永年の疑問だったオリガの過去を知るために。
そこで待っていたのは、悲劇の現代史を生きた3人の女性の物語だった。

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2006年に56歳で夭折されたロシア語同時通訳者にしてエッセイストの米原万里さんの処女小説「オリガ・モリソヴナの反語法」を原作とするラジオドラマです。
米原さんは1995年にエッセイ「不実な美女か貞淑な醜女か」で文壇にデビューし、2001年には「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
満を持して発表した本作ではBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞するなど小説家としても将来を嘱望されたわけですが、本作を書き上げた直後に卵巣がんが発覚。
3年後には死去されましたので、本作品は米原さんに取っては数少ない小説作品となりました。

さて、本作品の主人公の志摩(シーマチカ)は序盤の3回分以外は中年の女性です。
そして本作品のキーパーソンであるオリガ・モリソヴナは老女。
最近の青春アドベンチャーは対象年齢がかなり低い作品を採用することもあるのですが、本作品はびっくりするほど大人向きの作品です。
びりっかすの神さま」、「クラバート」など子ども向きでもなかなかの良作もあるのですが、やはり大人っぽい作品を聞きたい今日この頃。
この作品を作ったのは誰か?と演出の方の名前を見ると、やはり真銅健嗣さん。
真銅さんは、青春アドベンチャーきっての超大作封神演義」のほか、「精霊の守り人」、「ラジオキラー」のようなエンターテイメント作品の良作も担当されていますが、「赤と黒」、「蜩ノ記」といった大人向けの作品や、「妖異金瓶梅」や「穴(HOLES)」といった訳の分からない作品(褒めています)を多く担当されています。
本作品も真銅さんならではチョイスと言えましょう。

さてさて、本作品の内容は、志摩がベルリンの壁崩壊後のロシアを巡り、ロシア/ソ連の現代史の裏側を辿りながら、オリガの謎を解き明かしていく物語です。
物語のスタートはチェコのプラハですが、「プラハの春」のように民主化自体がテーマになることはなく、第3回に時間は約30年後に飛び、志摩の探索が始まります。
オリガ・モリソヴナと、もうひとりの不思議な教師エレオノーラとの関係は?
「シベリアのアラスカ」とは何か?
そして、やがて見えてくる「ふたりのオリガ・モリソヴナ」の真相は?

本作品、基本的に志摩とその親友のカーチャがロシアのいくつかの場所を巡り、人と話しながら、真相を探していくだけの地味な話です。
もちろんアクションシーンなどかけらもありませんし、男女の恋愛も……まあ、ありますが、それが作品の主題ではありませんし、明かされる真相も、強制収容所(ラーゲリ)や秘密警察(NKGB=エヌカーゲーベー)絡みのひたすら悲惨なものばかり。
しかし、後半から終盤にかけて一気に真相がわかっていく流れ、そして残った真実、つまり、心が壊れていると思われたエレオノーラが実は抱え込んでいた思い、作中最悪の人物として描かれているミハイロフスキーがわずかに見せる人間性、オリガが"あの"オリガになった理由、そしてオリガの反語法に秘められた権力や権威そしてどうしようもない運命に対する反骨心が明らかになる様は、とても感動的です。
まあ、冷静に考えると、オリガと特別な関係にあったジーナの行方に絞って最初から探していればすぐに真相にたどりついたのではないかという気もしますが…

ところで話は変わりますが、原作者の米原万里さんは、共産党の衆議院議員を父に持ち、自らもチェコのプラハでソビエト大使館付属学校に通っていた方です。
カール・マルクスの思想に共感を示していたそうですし、そういう意味ではソ連を擁護するような内容にしそうなものですが、本作品は徹頭徹尾、ソ連の悲惨で非人間的な裏面描いています。
考えてみると米原万里さん自身、偽悪的な悪口や下ネタが大好きだった方のようですので、元来が反体制・反権力であった(はずの)共産主義への信頼と、現実の体制(ソ連)への冷静な視線は特に矛盾することではないのかもしれません。

それにしても結局、「ソビエト社会主義人民共和国」とは何だったのか。
「共産主義」という美しい理想の下、人は、そして組織は、どうしてあそこまで堕落してしまうのか。
個人的な思いとしては、「みんな労働者の国」、つまり「みんな平等に貧しい国」などという理想が結局、聖人ならざる普通の人間には受け入れることはできないものだったのだと思います。
「アイツよりいい暮らしをしたい」、「アイツより権力をふるいたい」、「だって自分はアイツより少しだけかもしれないけど優秀なんだし、頑張ったのだから、差が付かないと納得できない。」
アメリカ合衆国の心理学者マズローの「欲求段階説」によれば、人間の欲求は、低次のものから順に、.「生理的欲求」 (Physiological needs)、「安全の欲求」 (Safety needs)、「社会的欲求又は所属と愛の欲求」(Social needs / Love and belonging)、「承認(尊重)の欲求」 (Esteem)、「自己実現の欲求 」(Self-actualization)の5段階に分けられ、最高位の「自己実現の欲求」に至ってやっと、自分や他人をありのままに受け入れられるようになるそうです。
先ほど書いたような思いを振り捨てて平等に邁進できるのは。それこそホー・チ・ミンやチェ・ゲバラのような本当に聖人(=変わり者)だけなのでしょう。
それは資本主義でも共産主義でも同じ。
結局は権力者の堕落をチェックする仕組みと権力者の交代を可能にする多様性のなさが悲劇につながったのだと思います。

…と、固い話はこのくらいにして、話は出演者に変わります。
本作品の主役を務めるのは西山水木さん。
青春アドベンチャーでは時々お名前をみかけるように思いますが、主演されるのは1997年の「顔に降りかかる雨」以来、およそ20年ぶりだと思います。
「20年ぶりの主演」
考えてみると青春アドベンチャーも凄い番組ですね。
また超重要人物のオリガ・モリソヴナを演じるのは銀粉蝶さん。
カフェテラスのふたり」時代の「10人のシンデレラ パートⅢ」で主演されていたのは1988年。
こっちは何と30年前です!
そのほか、カーチャ役の岡本易代さん、エレオノーラ役の大方斐紗子さんなど、とにかく中年、老年の女性のキャストが多い作品です。
あっ、例によって脚本の丸尾聡さんも出演されていますよ。



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